・・・従って、かえってそういう文献などに精通しない門外漢の幼稚な考察の中からいくらかでも役に立つような若干の暗示が生まれうるプロバビリティーがあるかもしれないと思われる。また一方で自分は、従来自分の目にふれたわが国での映画芸術論には往々日本人ばな・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・こんな幼稚なものでも当時の子供に与えた驚異の感じは、おそらくはラジオやトーキーが現代の少年に与えるものよりもあるいはむしろ数等大きかったであろう。一から見た十は十倍であるが、百から見た同じ十はわずかに十分の一だからである。今の子供はあまりに・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・いろいろないたずら書きの中に『明星』ばりの幼稚な感傷的な歌がいくつか並んでいる。こういう歌はもう二度と作れそうもない。当時二十五歳大学の三年生になったばかりの自分であったのである。 たしかその時のことである。江の島の金亀楼で一晩泊った。・・・ 寺田寅彦 「海水浴」
・・・これは一人の黒奴が、ナーシッサスと云う船に乗り込んで航海の途中に病死する物語であるが、黒奴の船中生活を叙したものとしては、いかにも幼稚で、できが悪い。しかし航海の描写としては例の通り雄健蒼勁の極を尽したものである。だから、余の希望から云うと・・・ 夏目漱石 「コンラッドの描きたる自然について」
・・・むやみに泣かせるなどは幼稚だと思う。 それでは人間に同情がない作物を称して写生文家の文章というように思われる。しかしそう思うのは誤謬である。親は小児に対して無慈悲ではない、冷刻でもない。無論同情がある。同情はあるけれども駄菓子を落した小・・・ 夏目漱石 「写生文」
・・・よしなっていたって、幼稚にしろ筋は子供の頭より込入っているからそう一口に判断を下してやる訳には行かない。それでどうも迷児つかされる事がたびたび出て来るのです。大人から云えば、ただ見ていて事件の進行と筋の運び方さえ腑に落ちればそれですむのです・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・彼らの有用とか無用とかいう意味は極めて幼稚な意味で云うのですから駄目であります。怒るなら、怒ってもよろしい、いくら怒っても駄目であります。怒るのは理窟が分らんから怒るのです。怒るよりも頭を下げてその訳でも聞きに来たらよかろうと思います。恐れ・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・それは極めて幼稚な神秘的な考である。芸術的直観といえども、そうしたものではない。それは無限の過程であるのである。物理学というものも、歴史的身体的なる我々の感官の無限なる行為的直観の過程に基くのである。直観的過程において一々の点が始であり終で・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・ 幼稚の時より男女の別を正くして仮初にも戯れたる事を見聞せしむ可らずと言う。即ち婬猥不潔のことは目にも見ず耳にも聞かぬようにす可しとの意味ならん。至極の教訓なり。是等は都て家風に存することにして、稚き子供の父たる家の主人が不行跡・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・さればこそ習慣は第二の天性を成すといい、幼稚の性質は百歳までともいう程のことにて、真に人の賢不肖は、父母家庭の教育次第なりというも可なり。家庭の教育、謹むべきなり。 然るに今、この大切なる仕事を引受けたる世間の父母を見るに、かつて子を家・・・ 福沢諭吉 「家庭習慣の教えを論ず」
出典:青空文庫