・・・作者の主観に足場をおいて達観すれば、やがて、そのような主観と客観との噛み合いを作家としての歴史の底流をなす社会的なものへの判断で追究し整理するより、現象そのままの姿でそれを再現し語らしめようという考えに到達することは推察にかたくない。特に自・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・ 従って、科学者の随筆は、所謂科学的な態度ではない文学的と思われる方に傾き、そのことでは自覚されない底流で、科学精神の分裂を許したとも云えないことはない。文学そのものが客観的現実に対する眼光の確かな洞察力を失い、創造力の豊かな社会的地盤・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・しかし、この板橋での出来ごとや強制買上げ案、警視庁の意見の公表の調子などの間には、私たち人民が、ふむ、こんな風か、と読みすごしてはならない、極めて微妙、深刻な、何かの底流が潜んでいるのではなかろうか。 私たち日本の人民は、やっとこのごろ・・・ 宮本百合子 「人民戦線への一歩」
・・・老年の叡智と芸術家としての不撓な洞察が、人間社会生活の現実の細部とその底流を観破ること益々具体的であるという状態であって、はじめて自然と人間関係についての見かたも、そのリアリティーと瑞々しさとを保ち得るのである。 日本の現実は多難であり・・・ 宮本百合子 「藤村の文学にうつる自然」
・・・日本の女性のかわったのは表でかわるよりも、その底流でひどくかわって来ている。表面からばかり見ると、或る意味では落ちた花が浮いている池の面のようで、見てすぎるだけのもののようだけれども、たとえば、きょう十七八歳になっている若い女性たちの中には・・・ 宮本百合子 「人間イヴの誕生」
・・・ そうだとすると、最も独特な個性的気質によって創造されて始めて価値のある或る人の芸術が、気質の著しい一底流を反映せずには在りようのないのは当然でございましょう。 若し、私の感受性を信頼すれば、私は、「新しき命」に納められた数篇の中に・・・ 宮本百合子 「野上彌生子様へ」
・・・ 勘は天来のものではなくて、人間の努力、反復、鍛錬の結果が蓄積して、複合的な直覚が特定の範囲で発動し、肉体の動きまでを支配する、そういう意志的な要素を底流とした心理であるから、勘の内容は、反復され、努力されることの質に応じて具体的に相異・・・ 宮本百合子 「文学上の復古的提唱に対して」
・・・現実の展開の局限などから生じた停滞が、この傾向を助長させているのであろうし、又限界をひろくして観察すれば、そういう傾向にいつしか導き込む安易さが昨年あたりからヒューマニズム提案がなされた初期からの或る底流の一筋としてつづいて来ていることも見・・・ 宮本百合子 「夜叉のなげき」
・・・家庭というものの本質の崩壊が案外こういう底流によって導かれる。若い世代は結婚への自分の理想を持ちなおすように鼓舞されなければならないと思う。〔一九四〇年五月〕 宮本百合子 「若い世代の実際性」
出典:青空文庫