・・・会社の浮沈を我身の浮沈と考えていた。彼等は争議団員中の軟派分子を知っていた。またいろいろの団員中の弱点も知っていた。それで第一に行われたのが、「切り崩し」「義理と人情づくめ誘拐」であった。しかしそれも大した功を奏しなかった。そこで今度は、ス・・・ 徳永直 「眼」
・・・民衆主義の悪影響を受けた彼等の胸中には恐怖畏懼の念は影をだも留めず、夢寐の間にも猶忘れざるものは競争売名の一事のみである。聞くところによれば現代の小学生は小遣銭を運動費となして、級長選挙の事に狂奔することを善事となしているというではないか。・・・ 永井荷風 「巷の声」
・・・大きな荷物は彼等が必ず携帯する自分の敷蒲団と枕とである。此も紺の袋へ入れた三味線が胴は荷物へ載せられて棹が右の肩から斜に突っ張って居る。彼等は皆大きな爪折笠を戴く。瞽女かぶりといって大事な髪は白い手拭で包んでそうして其髷へ載せた爪折笠は高く・・・ 長塚節 「太十と其犬」
・・・今日、英米の帝国主義と云うものは、彼等の民族自己主義に基くものに外ならない。或一民族が自己自身の中に世界的世界形成の原理を含むことによって始めてそれが真の国家となる。而してそれが道徳の根源となる。国家主義と単なる民族主義とを混同してはならな・・・ 西田幾多郎 「世界新秩序の原理」
・・・すべての芸術とすべての宗教とは、各の読者と各の弟子たちにまで、彼等自身の趣味を反映させるにすぎないだらう。たとへば日蓮は日蓮の個性に於て、親鸞は親鸞の個性に於て、同じ一人の釈迦を別々に解釈し――ああいかに彼等の解釈がちがつてゐたか。――そし・・・ 萩原朔太郎 「装幀の意義」
・・・ 秋山は十年、小林は三十年、坑夫をやって来た。彼等は、車を廻す二十日鼠であった。 彼等は根限り駆ける! すると車が早く廻る。ただそれ丈けであった。車から下りて、よく車の組立を見たり「何のために車を廻すか?」を考える暇がなかった。・・・ 葉山嘉樹 「坑夫の子」
・・・故に我輩は単に彼等の迷信を咎めずして、其由て来る所の原因を除く為めに、文明の教育を勧むるものなり。一 人の妻と成ては其家を能く保べし。妻の行ひ悪敷放埒なれば家を破る。万事倹にして費を作べからず。衣服飲食抔も身の分限に随ひ用ひて奢・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・併し彼等はまるで今迄とは性質の変った思いもかけぬ神様や幸福が先きにあるように考えてるらしいが、私はそうは思わん。我々が斯うして生きてるのは即ち「アンノーン、ハッピネス」じゃないか。ただ気が付かずに迷ってるだけだ。聖人は赤児の如しという言葉が・・・ 二葉亭四迷 「私は懐疑派だ」
・・・三文文士がこの字で幼稚な読者をごまかし、説教壇からこの字を叫んで戦争を煽動し、最も軽薄な愛人たちが、彼等のさまざまなモメントに、愛を囁いて、一人一人男や女をだましています。 愛という字は、こんなきたならしい扱いをうけていていいでしょうか・・・ 宮本百合子 「愛」
・・・もし東京に残って居る鴎外の昔の敵がこの文を読んだなら、彼等はあるいは予を以て幽霊となし、我言を以て怨しいという声となすかも知れない。しかしそれは推測を誤って居る。敵が鴎外と云う名を標的にして矢を放つ最中に、予は鴎外という名を署する事を廃めた・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
出典:青空文庫