・・・「医科の和田といった日には、柔道の選手で、賄征伐の大将で、リヴィングストンの崇拝家で、寒中一重物で通した男で、――一言にいえば豪傑だったじゃないか? それが君、芸者を知っているんだ。しかも柳橋の小えんという、――」「君はこの頃河岸を・・・ 芥川竜之介 「一夕話」
・・・その弟の主水重昌は、慶長十九年大阪冬の陣の和が媾ぜられた時に、判元見届の重任を辱くしたのを始めとして、寛永十四年島原の乱に際しては西国の軍に将として、将軍家御名代の旗を、天草征伐の陣中に飜した。その名家に、万一汚辱を蒙らせるような事があった・・・ 芥川竜之介 「忠義」
・・・恒藤は又賄征伐をせず。皿を破り飯櫃を投ぐるは僕も亦能くせざる所なり。僕問う。「君はなぜ賄征伐をしない?」恒藤答う。「無用に器物を毀すのは悪いと思うから。――君はなぜしない?」僕答う。「しないのじゃない、出来ないのだ。」 今恒藤は京都帝国・・・ 芥川竜之介 「恒藤恭氏」
・・・わたしはいつでもアフリカから、百万の黒ん坊の騎兵と一しょに、あなた方の敵を征伐に行きます。わたしはあなたを迎えるために、アフリカの都のまん中に、大理石の御殿を建てて置きました。その御殿のまわりには、一面の蓮の花が咲いているのです。どうかあな・・・ 芥川竜之介 「三つの宝」
・・・……二 桃から生れた桃太郎は鬼が島の征伐を思い立った。思い立った訣はなぜかというと、彼はお爺さんやお婆さんのように、山だの川だの畑だのへ仕事に出るのがいやだったせいである。その話を聞いた老人夫婦は内心この腕白ものに愛想をつか・・・ 芥川竜之介 「桃太郎」
・・・そうだ、あの帽子に化けている狸おやじを征伐するより外はない。そう思いました。で、僕は空中にぶら下がっている帽子を眼がけて飛びついて、それをいじめて白状させてやろうと思いました。僕は高飛びの身構えをしました。「レデー・オン・ゼ・マーク……・・・ 有島武郎 「僕の帽子のお話」
・・・私が、征伐をしてあげます。あなたは、そのかわり、しばらく窮屈な思いをしなくてはなりません。」と、命令するようにいって、くもは、ろくろく花の返答も気かずに、細い糸で葉と葉との間や、茎と茎との間に網を張りはじめました。 花にとってこのくもの・・・ 小川未明 「くもと草」
・・・そして家に帰ると四人はそろって太郎を征伐するのだといって出かけました。しまいには四人のほかにも年下の七つ八つぐらいの子供が三人も四人も後からついてきたのであります。しかるに太郎のほうはいつも一人でありました。太郎は路のまん中に立って勇敢に戦・・・ 小川未明 「雪の国と太郎」
・・・ まず、彼は売薬業者の眼のかたきである医者征伐を標榜し、これに全力を傾注した。「眼中仁なき悪徳医師」「誤診と投薬」「薬価二十倍」「医者は病気の伝播者」「車代の不可解」「現代医界の悪風潮」「只眼中金あるのみ」などとこれをちょっと変えれば、・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・「ロシヤ征伐」において初めて彼は生活の意味を得た。と言わんよりもむしろ、国家の大難に当たりてこれを挙国一致で喜憂する事においてその生活の題目を得た。ポーツマウス以後、それがなくなった。 かれ男爵、ただ酒を飲み、白眼にして世上を見てば・・・ 国木田独歩 「号外」
出典:青空文庫