・・・ 雨乞の雨は、いずれも後刻の事にして、そのまま壇を降ったらば無事だったろう。ところが、遠雷の音でも聞かすか、暗転にならなければ、舞台に馴れた女優だけに幕が切れない。紫玉は、しかし、目前鯉魚の神異を見た、怪しき僧の暗示と讖言を信じたのであ・・・ 泉鏡花 「伯爵の釵」
・・・ 時めく婿は、帽子を手にして、「後刻、お伺いする処でした。」 驚破す、再び、うぐい亭の当夜の嫖客は――渠であった。 三人のめぐりあい。しかし結末にはならない。おなじ廓へ、第一歩、三人のつまさきが六つ入交った時である。 落・・・ 泉鏡花 「古狢」
・・・「吉里さん、後刻に遊びにおいでよ」と、小万は言い捨てて障子をしめて、東雲の座敷へ急いで行ッてしまった。 その日の夜になッても善吉は帰らなかッた。 夜の十一時ごろに西宮が来た。吉里は小万の室へ行き、平田が今夜の八時三十分の汽車で出・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
出典:青空文庫