・・・ 二葉亭のお父さんは尾州藩だったが、長い間の江戸詰で江戸の御家人化していた。お母さんも同じ藩の武家生れだったが、やはり江戸で育って江戸風に仕込まれた。両親共に三味線が好きで、殊にお母さんは常磐津が上手で、若い時には晩酌の微酔にお母さんの・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・』と首を出したのは江藤という画家である、時田よりは四つ五つ年下の、これもどこか変物らしい顔つき、語調と体度とが時田よりも快活らしいばかり、共に青山御家人の息子で小供の時から親の代からの朋輩同士である。 時田は朱筆を投げやって仰向けになり・・・ 国木田独歩 「郊外」
・・・十日、庚戌、将軍家御疱瘡、頗る心神を悩ましめ給ふ、之に依つて近国の御家人等群参す。廿九日、己巳、雨降る、将軍家御平癒の間、御沐浴有り。(吾妻鏡 おたずねの鎌倉右大臣さまに就いて、それでは私の見たところ聞いたところ、つとめて虚飾を避け・・・ 太宰治 「鉄面皮」
・・・ 水戸の御家人や旗本の空屋敷が其処此処に売物となっていたのをば、維新の革命があって程もなく、新しい時代に乗じた私の父は空屋敷三軒ほどの地所を一まとめに買い占め、古びた庭園や木立をそのままに広い邸宅を新築した。私の生れた時には其の新しい家・・・ 永井荷風 「狐」
出典:青空文庫