・・・これはこの二人の人の有声映画というものに対する心的態度と要求との根本的差違を反映する現象である。将来の有声映画製作者にとってはこの二つの対蹠的な現象の分析的研究が必要となるであろう。この二つのものはしかし必ずしも互いに相容れないものではない・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・といったような奇妙な心的状態に陥ってそれが容易には平常に復しないで困ることがある。今まで注意を集注していた研究事項の内容がひとかたまりになって頭の中にへばりついたようなぐあいになってそれがなかなか消散しない。用がすんだら弛緩してもいいはずの・・・ 寺田寅彦 「映画と生理」
・・・あるいは「鸚鵡のような心的状態」という意味だとある。 私はこの珍しい言葉を覚えるために何遍も口の中で、シッタシズム、シッタシズムと繰り返した。それですっかり記憶してしまったが、それからは何かの拍子にこの妙な言葉が意外な時にひょっくり頭に・・・ 寺田寅彦 「鸚鵡のイズム」
・・・いわんや衣食に窮せず、仕事に追われぬ芸術家と科学者が、それぞれの製作と研究とに没頭している時の特殊な心的状態は、その間になんらの区別をも見いだしがたいように思われる。しかしそれだけのことならば、あるいは芸術家と科学者のみに限らぬかもしれない・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
・・・もっとも時代の推移に応じて化け物の表象は変化するであろうが、その心的内容においては永久に同一であるべきだと思われる。 昔の人は多くの自然界の不可解な現象を化け物の所業として説明した。やはり一種の作業仮説である。雷電の現象・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・いろいろあるうちで余のもっとも要点だと考えるにも関らず誰も説き及んだ事のないのは作者の心的状態である。他の点はこの一源泉より流露するのであるから、この源頭に向って工夫を下せば他はことごとく刃を迎えて向うから解決を促がす訳である。 社会は・・・ 夏目漱石 「写生文」
・・・そうして不思議にもこの二つの心的状態が結果に現われたところを見るとよく一致している場合が起るのです。しかしこれはほんのついでに申し上る事で、話の筋に関係した問題でもありませんから深くは立ち入りません。――何しろ私はその変な画を眺めるだけで、・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・即ち私の心的要素を種々の事情の下に置いて、揉み散らし、苦め散らし、散々な実験を加えてやろう。そしたら、学術的に心持を培養する学理は解らんでも、その技術を獲ることは出来やせんか、と云うので、最初は方面を撰んで、実業が最も良かろうと見当を付けた・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・その一段深まり拡った人間と自然との生存を味わせようとして、神は人間に複雑な全心的な恋愛の切な情を与えたのかと思われることさえある程です。 恋愛の真実な経験は間違いなく生活内容を増大させます。けれども、私には、恋愛生活ばかり切りはなして、・・・ 宮本百合子 「愛は神秘な修道場」
・・・それらのことから派生して、日本の作家はこれまであまり個々の才能を過大に評価しすぎたし、文学創造の過程にある心的な独自性、ほかの精神活動にないメンタルな特性の主張を、おおざっぱに文学の純粋性だの、文学性だのという概念でかためてしまってきた。そ・・・ 宮本百合子 「ある回想から」
出典:青空文庫