・・・さらに一本を懇願しても、顔をしかめるばかりで相手にしない。さらに愁訴すると、奥から親爺が顔を出して、さあさあ皆さん帰りなさい、いまは日本では酒の製造量が半分以下になっているのです。貴重なものです。いったい学生には酒を飲ませない事に私どもでは・・・ 太宰治 「未帰還の友に」
・・・然し彼の意識しない愛惜と不安とが対手に愁訴するように其声を顫わせた。殺すなといえばすぐ心が落ち付いて唯其犬が不便になったのである。然し対手は太十の心には無頓着である。「おっつあん殺すのか」 斯ういう不謹慎ないいようは余計に太十を惑わ・・・ 長塚節 「太十と其犬」
・・・幾度、母の愁訴、憤怒にあっても、心の態度は、もう定って居る。一層解って貰えるように、一層、心に入り易いように、先日話した諸点を、又繰返すほかないのである。 二人は陰気な心持で、夜店の賑やかな肴町の大通りを抜けた。 H町の通りは、相変・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
出典:青空文庫