・・・書いてあるのは毒にも薬にもならないような事であるか、そうでなければ、木村が不公平だと感ずるような事であるからである。そんなら読まなくても好さそうなものであるが、やはり読む。読んで気のない顔をしたり、一寸顔を蹙めたりして、すぐにまた晴々とした・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・いやそれより若しも生活の感覚化がより真実なる新時代への一致として赦され強要せられなければならないものとしたならば、少くとも文学活動にその使命を感ずる者はより寧ろ生活の感覚化を拒否し否定しなければならないではないか。何ぜなら、もしも然るがよう・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・沈んだ心持ちで書き始めたこの手紙をとりとめもなく書きつづけて行く内に、私は興奮して五体に力の充ちたことを感ずるようになりました。あなたは喜んでくださるでしょう。あなたに読んでいただくずっと前に、あなたに手紙を書いたという事だけで私にはもう効・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
出典:青空文庫