・・・と、先刻からこの少年に対して自分の抱いていた感想は全く誤っていて、この少年もまた他の同じ位の年齢の児童と同様に真率で温和で少年らしい愛らしい無邪気な感情の所有者であり、そしてその上に聡明さのあることが感受された。その眼は清らかに澄み、その面・・・ 幸田露伴 「蘆声」
・・・この驚くべき技巧がもっともっと自由に応用され、観客が次第にそれに慣らされて、そうしてそれに固有な効果を十二分に感受することのできる日が来るとしたら、その日から人間の子孫にとっては全く新しい世界が生まれるであろう。 映画における「時」につ・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・社会現実の変化はいつのまに生きる人間の感情をさえどのように変化させ発展させてゆくものであるかという相互の関係を、ソヴェトの人々の生活において感受したばかりでなく、自分の内部的変化として自覚した。ソヴェトの人民が、自分たちの運命をみずから変え・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第九巻)」
・・・詩、絵、短篇小説類を集めた大判の雑誌で、それを見ると、彼等の陽気さ、活気、或る時には茶目気をふんだんに感受することが出来ますが、英国で嘗て、ビアーズレー、エーツ等の詩人、画家が起した新運動等は、これらの同人雑誌から期待することは出来ません。・・・ 宮本百合子 「アメリカ文士気質」
・・・日本の自覚あるすべての勤労者が、歴史のうちに描きだす自分たちの人生を大切に思い、自分たちの生命の価値を表現する職務を愛し、自分とすべての人々のために力ある組織をもちはじめているいま、人生を感受することの最も鋭いはずの作家たちが、自分たちも組・・・ 宮本百合子 「ある回想から」
・・・ わたくしは、小説をかく者ですから、『仰日』をはじから拝見しながらも、いつかそれを生活的に立体化して感受し、日々の生活の描写にまじえて、自然鑑賞の歌をうけとるという工合になります。生活の歌はほとんどすべて率直であって、その瞬間の真実に立・・・ 宮本百合子 「歌集『仰日』の著者に」
・・・従ってその瞬間における統一性は直覚的な速度に感受されなければならない。即ち表現の上に叙述的な冗長は斥けられ、単純化はその必然的な方法となる。文学的行動主義が、造型芸術における野獣派、ピュリズム、プリミチヴィズム、シムルタニズム、表現主義或い・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・然し、人間の主観的な感情の鏡によって、自然の姿が悲喜さまざまに観られ感受されると同時に、そのような各人の感情の発動する根源には、そのひとの住む自然が環境的な影響として力強く作用しているのである。 例えば、同じヨーロッパの中でもスペインや・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・コンスタンチン・シーモノフは旺盛な三十歳という年齢、彼の感性的な素質、経験の追求、観察の追求における作家らしい生活性などは、日本の浅く乏しい社会生活の流れの上に立った期間においてさえ、私たちに感受された。彼の横溢性はアメリカの横溢性と向いあ・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・二 遠い遠い昔の幾百年かの間、我々の祖先の人々が思っていた通りに、あらゆる感情は、ただ胸によってのみ感受され、発動されるものだと仮定すれば、この時代の彼女の全生活は、その感情の宮殿の圏外には、一歩も踏み出さない範囲において進・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
出典:青空文庫