・・・その一人は富岡先生、その一人は村の校長細川繁、これも富岡先生の塾に通うたことのある、二十七歳の成年男子である。 二人は間を二三間隔てて糸を垂れている、夏の末、秋の初の西に傾いた鮮やかな日景は遠村近郊小丘樹林を隈なく照らしている、二人の背・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・ 試みに西洋諸国の工商社会を見れば、某は何々の工事を企てて何十万円を得たり、某は何々の商売に何百万の産をなしたりという、その人の身は、必ず学校より出でたる者にして、少小教育の所得を、成年の後、殖産の実地に施し、もって一身一家の富をいたし・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾学生諸氏に告ぐ」
・・・婦人の安い労働賃金、青少年の安い労働賃金、それはいつも成年男子の賃金の安定を脅かして来た。失業の予備軍となっている。しかしそういう点で共通の幸福を守ること、その協力の意味を理解しない男の人たちは、組合が要求するから仕方がないようなものの、女・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・女子は成年に達して、やっと法律上の人格をもつや否や、結婚によって「妻の無能力」に陥ってしまう。婦人が人間として能力者である時間は、特別な結婚難の時代のほかは、本当に短いのである。ところが、刑法において、婦人はどう扱われているであろうか。刑法・・・ 宮本百合子 「石を投ぐるもの」
・・・幼年と成年、老年と自身との間に、鋭い歴史的自覚の線を感じ、それをおしすすめ、新民主主義という自身の興味つきない課題を完遂して、世界の中に一人前になろうと欲してこそ、自然なのである。 燦く石にさえ、宝石として一つ一つにさまざまの名がつ・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・ 成年の女に月経は自然の現象ではあるけれども、現代の労働の或る種のものは、その自然現象に阻害を与えるような悪事情で女を働らかせている。その面に私たちの関心は向けられる。自然のことなのであるから、それが自然に処理され、自然に経験されてゆく・・・ 宮本百合子 「職業婦人に生理休暇を!」
・・・婦人は、未成年時代には勿論、総てのことを親の権利によって支配されている。法律上の成年になって、やっと婦人も民法上一人前の能力者になる。と思うと、現在のような結婚難の時代でなければ、それらの若い婦人達は、あらましその前後の年齢で結婚して家庭に・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・ 私は、今丁度、研究者の使う用語を以てすれば、青年期の末端、成年期に入ろうとするところにあります。文字の上では、いささかの華やかさもない時です。それにも拘らず、私一人としては慎重に思いあらためて見ずにおけない、内的転回が極最近に行われま・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
出典:青空文庫