・・・然るに世に智徳の二字を熟語となし、智恵といえば徳もまた、これに従うものの如く心得、今日、西洋の文明は智徳の両者より成立つものなれば、智恵を進むるには徳義もまた進めざるべからずとて、或る学者はしきりに道徳の教をしき、もって西洋の文明に至らんと・・・ 福沢諭吉 「文明教育論」
・・・だが残念なことに、経済的な理由、肉体的な理由をひっくるめての複雑多岐な男との交渉をもその一部としてもちながら、女の全生活は立体的に成り立つものであるという理解を、作者は葉子の生き方とその悲劇を語る広い背景として頭に置いていないように見える。・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・軍隊のないはずの日本に、いつ反軍の犯罪というものが成り立つようになったのだろう。反戦・反軍ということと「犯罪」という観念とを直結した用語の方法のうちにこそ、一九五一年度の、日本人民の人権擁護の要石がむき出しにされている。幾百万の人々がよむ新・・・ 宮本百合子 「修身」
・・・良心という言葉そのものが一定の規準と行動との関係に於て成立つ言葉である。「希望館」の作者によって言われている強靭な意志というのは、何故にお経を読まされること、阿諛を強いられる境遇に落ちつくことだけを内容とし現代の可能としているのであろう。強・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
・・・また、組合活動の中心課題がストライキは一段落だから今度は文化活動へという考え方で成り立つものでもありません。わたしたちは、人間らしくこの人生を愛するからこそ自然に職場で活溌に働くようになるのだし、その経験から革命的にもなるのです。自分にぴっ・・・ 宮本百合子 「平和運動と文学者」
・・・にいわれているような条件で成り立つべきでないことを説明している。益軒の「女大学」は、あらゆるところで、女は夫に仕えて云々という表現をしているのだが、福沢諭吉の開化の心は、主従関係、身分の高下をあらわしたそういう表現が夫婦の間にあることに耐え・・・ 宮本百合子 「三つの「女大学」」
・・・情調は situation の上に成り立つ。しかし indfinissable なものである。木村の関係している雑誌に出ている作品には、どれにも情調がない。木村自己のものにも情調がないようである。」 約めて言えばこれだけである。そして反・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・翻訳の上では、世間が期待と興味とを以て歓迎する誤訳問題がここに成り立つ。最初文芸委員会がファウストを訳することを私に嘱した時、向軍治さんが一面委員会の鑑職の足らぬを気の毒がり、一面私の謙抑しないのを戒めて下すった。世間は向さんの快挙を見て、・・・ 森鴎外 「訳本ファウストについて」
出典:青空文庫