・・・が、汎濫した欧化の洪水が文化的に不毛の瘠土に注いで肥饒の美田となり、新たに植樹した文明の苗木が成長して美果を結んだのは争えない。少くも今日の新らしい文芸美術の勃興は当時の欧化熱に負う処があった。 井侯以後、羹に懲りて膾を吹く国粋主義は代・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・けっして竹に木を接ぎ、木に竹を接ぐような少しも成長しない価値のない生涯ではないと思います。こういう生涯を送らんことは実に私の最大希望でございまして、私の心を毎日慰め、かついろいろのことをなすに当って私を励ますことであります。それで私のなお一・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・樅はある程度まで成長して、それで成長を止めました、その枯死はアルプス産の小樅の併植をもって防ぎ得ましたけれども、その永久の成長はこれによって成就られませんでした。「ダルガスよ、汝の預言せし材木を与えよ」といいてデンマークの農夫らは彼に迫りま・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・といって、吉雄くんは、自分のうちのいちじゅくが、くらべものにならぬほど、成長のおそいのをかわいそうに感じたのでした。 吉雄くんは、お家へ帰って、さっそく、庭の片すみにあったいちじゅくの木を、圃へ移してやりました。「僕がわるかったのだ・・・ 小川未明 「いちじゅくの木」
・・・ その日から、草は太陽の光を受けて、めきめきと成長いたしました。一月ばかりの間に、どんなに草は大きくなったでしょう。そして、枝ものびて、つぼみもつけて、いまにも花を咲こうとしたのであります。 そのとき、太陽は、ふたたび屋根のあちらに・・・ 小川未明 「小さな草と太陽」
・・・孫の成長とともにすっかり老いこみ耄碌していた金助が、お君に五十銭貰い、孫の手を引っぱって千日前の楽天地へ都築文男一派の新派連鎖劇を見に行った帰り、日本橋一丁目の交叉点で恵美須町行きの電車に敷かれたのだった。救助網に撥ね飛ばされて危うく助かっ・・・ 織田作之助 「雨」
・・・者な話術を持って若くして文壇へ出た時、私は彼の逞しい才能にひそかに期待して、もし彼が自重してその才能を大事に使うならば、これまでこの国の文壇に見られなかったような特異な作家として大成するだろうと、その成長を見守っていたのだが、文壇へ出て二三・・・ 織田作之助 「鬼」
・・・とにかく君の本体なるものは活きた、成長して行く――そこから芽が吹くとか枝が出るとかいったようなものではなくて、何かしら得体の知れないごろっとした、石とか、木乃伊とか、とにかくそんなような、そしてまったく感応性なんてもののない……そうだ、つま・・・ 葛西善蔵 「遁走」
・・・しかし人間はこの寂寥と悲傷とを真直ぐに耐えて打ち克つときに必ず成長する。たましいは深みと輝きをます。そのとき自暴になったり、女性呪詛者になったり、悲しみにくず折れてしまってはならぬ。思いが深かっただけ傷は深く、軽い慰めの語はむしろ心なき業で・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・これを怠っては芸術の成長の一つの大きな滋養を失うことになる。いい人のものはたくさん読むだけ良い。しかし読書は考えたり観察したりすることほど大切ではない。良く考え良く観察し、良く読むことが揃わねばならぬ。一、できるだけ多く書くこと・・・ 倉田百三 「芸術上の心得」
出典:青空文庫