・・・ 然ばすなわち我が輩の所業、その形は世情と相反するに似たりといえども、その実はともに天道の法則にしたがいて天賦の才力を用ゆるの外ならざれば、此彼の間、毫も相戻ることなし。前日の事、すでにすでにかくの如し、後日の事、またまさにかくの如くな・・・ 福沢諭吉 「中元祝酒の記」
・・・、その範囲を脱せざれば甚だ佳しといえども、文明の事は有形の門より入るもの多きの例なれば、婦人の教育についてもその形を先にし、先ず衣裳を改めて文明の風を装い、交際を開いて文明の盛事を学び、只管外国婦人の所業に傚うて活溌を気取り、外面の虚飾を張・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・のみならず、読者に対してはどうかと云うに、これまた相済まぬ訳である……所謂羊頭を掲げて狗肉を売るに類する所業、厳しくいえば詐欺である。 之は甚い進退維谷だ。実際的と理想的との衝突だ。で、そのジレンマを頭で解く事は出来ぬが、併し一方生活上・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・ さほ子の声が次第に怪しく鼻にかかり、口先の慰撫が困難になって来ると、彼は、そろそろ自分の所業を後悔し出した。「いや全く、いくらはいはい云おうとも、いないには増しに違いなかったろう。葉書で呼びかえすかな。然し、又、あれに攻められるの・・・ 宮本百合子 「或る日」
・・・といってあたりを見廻した時、いつの間にやら鎮まって、あっけにとられ、彼の所業を見守っていた勇吉が、いかにも面目なげにしおれ、小さい声で勘助にささやいた。「もうええ」 勘助は、勇吉を眺め、やはり楽しそうにさらりといった。「そう・・・ 宮本百合子 「田舎風なヒューモレスク」
・・・荒々しい条件におかれた自身の荒々しい所行の物語といっしょに、恐怖をもって臆測されている北鮮の治安が実際にはよくて、保安隊の若もの、土地の人々の親切、ソ同盟の兵士の素朴な人間ぽさなども、それがそうであったように語られている。北鮮の新幕から三十・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・十月十日に、同志たちが解放される前後を中心として、治安維持法と、その非道な所業、その法律の撤廃を描いた映画であった。山本宣治を殺して出来た治安維持法が、小林多喜二を虐殺し、渡辺政之輔その他たくさんの人々を犠牲とした。小林多喜二が命を失ったと・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・ヨーロッパの第一次大戦において経験された破壊を心から嘆き、戦争が非人道的な所業であることを心から恥じているヨーロッパの多くの進歩的な人々は、真面目に第二次大戦を防ごうとしていたし、あらゆる形、あらゆる会議、あらゆる力の均衡を発見する方法をつ・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・第一に権兵衛が自分に面当てがましい所行をしたのが不快である。つぎに自分が外記の策を納れて、しなくてもよいことをしたのが不快である。まだ二十四歳の血気の殿様で、情を抑え欲を制することが足りない。恩をもって怨みに報いる寛大の心持ちに乏しい。即座・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・「そちが話を聞けば、甚五郎の申し分や所行も一応道理らしく聞こえるが、所詮は間違うておるぞよ。しかしそちも言うとおり、弱年の者じゃから、何かひとかどの奉公をいたしたら、それをしおに助命いたしてつかわそう」「はっ」と言って源太夫はしばらく畳・・・ 森鴎外 「佐橋甚五郎」
出典:青空文庫