・・・私は野に咲いた花を折ってきてそこに手向けた。 私は秋の日など、寺の本堂から、ひろびろとした野を見渡した。黄いろく色ついた稲、それにさし通った明るい夕日、どこか遠くを通って行く車の音、榛の木のまばらな影、それを見ると、そこに小林君がいて、・・・ 田山花袋 「『田舎教師』について」
・・・お熊は泣々箕輪の無縁寺に葬むり、小万はお梅を遣ッては、七日七日の香華を手向けさせた。 箕輪の無縁寺は日本堤の尽きようとする処から、右手に降りて、畠道を行く事一、二町の処にあった浄閑寺をいうのである。明治三十一、二年の頃、わたくしが掃・・・ 永井荷風 「里の今昔」
・・・お熊は泣く泣く箕輪の無縁寺に葬むり、小万はお梅をやっては、七月七日の香華を手向けさせた。 広津柳浪 「今戸心中」
出典:青空文庫