・・・駄目だと寺田はくわえていた煙草を投げ捨てると、スタンドを降りて、ゴール前の柵の方へ寄って行った。もう柵により掛らねば立っておれないくらい、がっくりと力が抜けていたのだ。向う正面の坂を、一頭だけ取り残されたように登って行く白地に紫の波型入りの・・・ 織田作之助 「競馬」
・・・プロレタリアートは、たゞブルジョアジーを武装解除した後にのみ、その世界史的見地に叛くことなく、あらゆる武器を塵芥の山に投げ棄てることが出来る。そしてプロレタリアートは、また疑いもなく、このことを成遂げるであろう。」と。 新しく入営する青・・・ 黒島伝治 「入営する青年たちは何をなすべきか」
・・・Sollen を地に投げたと思ったのは錯覚に過ぎなかった。Sollen は私の内にあった。Sollen を投げ捨てるためには、私は私自身を投げ捨てなければならないのであった。私は自分の内に Aesthet のいるのを拒むことはできないけれど・・・ 和辻哲郎 「転向」
出典:青空文庫