・・・く、工場の煙突でなく、路傍の藪でなく、寺の屋根でもなく、影でなく、日南でなく、土の凸凹でもなく、かえって法廷を進退する公事訴訟人の風采、俤、伏目に我を仰ぎ見る囚人の顔、弁護士の額、原告の鼻、検事の髯、押丁等の服装、傍聴席の光線の工合などが、・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・それを見附けて、女の押丁が抱いて寝台の上に寝かした。その時女房の体が、着物だけの目方しかないのに驚いた。女房は小鳥が羽の生えたままで死ぬように、その着物を着たままで死んだのである。跡から取調べたり、周囲の人を訊問して見たりすると、女房は檻房・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
・・・それを見附けて、女の押丁が抱いて寝台の上に寝かした。その時女房の体が、着物だけの目方しかないのに驚いた。女房は小鳥が羽の生えた儘で死ぬように、その着物を着た儘で死んだのである。跡から取調べたり、周囲の人を訊問して見たりすると、女房は檻房に入・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・と云うや否や、押丁はおれに例の紙包みを持って来て渡した。 その時おれは気を失った。それから醒覚したのは、監獄の部屋の中であった。夜である。おれの傍には卓があって、その上に襟の包みが載っている。 明日はおれは処刑を受ける。おれはヨオロ・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・載せられて来たものは一人ずつ降りた。押丁がそれを広い糺問所に連れ込む。一同待合室で待たせられる。そこでは煙草を呑むことが禁じてある。折々眼鏡を掛けた老人の押丁が出て名を呼ぶ。とうとうツァウォツキイの番になって、ツァウォツキイが役人の前に出た・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
出典:青空文庫