・・・現にカテキスタのフヮビアンなどはそのために十字架を拝するようになった。この女をここへ遣わされたのもあるいはそう云う神意かも知れない。「お子さんはここへ来られますか。」「それはちと無理かと存じますが……」「ではそこへ案内して下さい・・・ 芥川竜之介 「おしの」
・・・ 邪宗に惑溺した日本人は波羅葦増(天界の荘厳を拝する事も、永久にないかも存じません。私はそのためにこの何日か、煩悶に煩悶を重ねて参りました。どうかあなたの下部、オルガンティノに、勇気と忍耐とを御授け下さい。――」 その時ふとオルガンティ・・・ 芥川竜之介 「神神の微笑」
・・・まず千軍皆辟易するを 山精木魅威名を避く 犬村大角猶ほ遊人の話頭を記する有り 庚申山は閲す幾春秋 賢妻生きて灑ぐ熱心血 名父死して留む枯髑髏 早く猩奴名姓を冒すを知らば 応に犬子仇讐を拝する無かるべし 宝珠是れ長く埋没すべけ・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・すこしずつ危げなく着々と出世して行くお若い人たちのうしろすがたお見送りたてまつること、この世に生きとし生きて在る者の、もっとも尊き御光を拝する気持ちで、昨日は、神棚の掃除いたし、この上は、吉田様の御出世御栄達を祈るのみでございます。思えば不・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ かりにその上書建白をして御採用の栄を得せしめ、今一歩を進めて本人も御抜擢の命を拝することあらん。而してその素志果して行われたるか、案に相違の失望なるべし。人事の失望は十に八、九、弟は兄の勝手に外出するを羨み、兄は親爺の勝手に物を買うを・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・わたくしはあなたを遺憾なくはっきり拝することが出来ました。わたくしは胸が裂けるように動悸がいたしました。そしてあなたが好きになりました。やはり十六年前の青年よりは今のあなたの方が好きだと存じました。 あなたのような種類の人、あなたのよう・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
出典:青空文庫