・・・日頃拝みなれた、端厳微妙の御顔でございますが、それを見ると、不思議にもまた耳もとで、『その男の云う事を聞くがよい。』と、誰だか云うような気がしたそうでございます。そこで、娘はそれを観音様の御告だと、一図に思いこんでしまいましたげな。」「・・・ 芥川竜之介 「運」
・・・まったさんた・まりや姫は、金糸銀糸の繍をされた、襠の御姿と拝み申す。」 奉行「そのものどもが宗門神となったは、いかなる謂れがあるぞ。」 吉助「えす・きりすと様、さんた・まりや姫に恋をなされ、焦れ死に果てさせ給うたによって、われと同じ・・・ 芥川竜之介 「じゅりあの・吉助」
・・・ 小野の小町 まあ、そんなことを云わずに、……これ、この通り拝みますから。 使 いけません。ではさようなら。(枯芒 小野の小町 どうしましょう? 玉造の小町 どうしましょう? 二人ともそこへ泣き伏してしまう。・・・ 芥川竜之介 「二人小町」
・・・「さてあくる日、第一にこの建札を見つけましたのは、毎朝興福寺の如来様を拝みに参ります婆さんで、これが珠数をかけた手に竹杖をせっせとつき立てながら、まだ靄のかかっている池のほとりへ来かかりますと、昨日までなかった建札が、采女柳の下に立って・・・ 芥川竜之介 「竜」
・・・共同墓地の下を通る時、妻は手を合せてそっちを拝みながら歩いた――わざとらしいほど高い声を挙げて泣きながら。二人がこの村に這入った時は一頭の馬も持っていた。一人の赤坊もいた。二人はそれらのものすら自然から奪い去られてしまったのだ。 その辺・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・靉靆き渡る霞の中に慈光洽き御姿を拝み候。 しかじかと認められぬ。見るからに可懐しさ言わんかたなし。此方もおなじおもいの身なり。遥にそのあたりを思うさえ、端麗なるその御姿の、折からの若葉の中に梢を籠めたる、紫の薄衣かけて見えさせたまう・・・ 泉鏡花 「一景話題」
・・・ 誰のお庇だ、これも兄者人の御守護のせい何ぞ恩返しを、と神様あつかい、伏拝みましてね、」 と婆さんは掌を合せて見せ、「一年、やっぱりその五月雨の晩に破風から鼻を出した処で、(何ぞお望と申上げますと、とそういったそうでございます。・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・ と、身を捻じて、肩を抱きつつ、社の方を片手拝みに、「虫が知らしたんだわね。いま、お前さんが台所で、剃刀を持って行くって声が聞えたでしょう、ドキリとしたのよ。……秦さん秦さんと言ったけれど、もう居ないでしょう。何だかね、こんな間違が・・・ 泉鏡花 「売色鴨南蛮」
・・・ 女はたまらず顧みて、小腰を屈め、片手をあげてソト巡査を拝みぬ。いかにお香はこの振舞を伯父に認められじとは勉めけん。瞬間にまた頭を返して、八田がなんらの挙動をもてわれに答えしやを知らざりき。 五「ええと、八円・・・ 泉鏡花 「夜行巡査」
・・・……村の嫁女は振袖で拝みに出る。独鈷の湯からは婆様が裸体で飛出す――あははは、やれさてこれが反対なら、弘法様は嬉しかんべい。万屋 勝手にしろ、罰の当った。人形使 南無大師遍照金剛。――夫人、雨傘をすぼめ、柄を片手に提げ、手提・・・ 泉鏡花 「山吹」
出典:青空文庫