・・・それは我々人間が河童を捕獲することよりもずっと河童が人間を捕獲することが多いためでしょう。捕獲というのは当たらないまでも、我々人間は僕の前にもたびたび河童の国へ来ているのです。のみならず一生河童の国に住んでいたものも多かったのです。なぜと言・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・山中に住む野兎ならば、あるいは猟夫の油断ならざる所以のものを知っていて、之を敬遠するのも亦当然と考えられるのであるが、まさか博士は、わざわざ山中深くわけいり、野生の兎を汗だくで捕獲し、以て実験に供したわけでは無いと思う。病院にて飼養されて在・・・ 太宰治 「女人訓戒」
・・・ うば鮫を捕獲する一巻でも同じような場面がずいぶん繰り返し長く映写されるので、ある意味では少し退屈である。しかしこの退屈は下手な芝居映画の退屈などとは全く類を異にした退屈であって、それは画中の人生と自然そのものの退屈から来る圧迫感である・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・と云ってこの鳥の捕獲を誡めた野中兼山の機智の話を想い出す。 公園の御桜山に大きな槙の樹があってその実を拾いに行ったこともあった。緑色の楕円形をした食えない部分があってその頭にこれと同じくらいの大きさで美しい紅色をした甘い団塊が附着してい・・・ 寺田寅彦 「郷土的味覚」
・・・子熊のほうはたぶんそのうちに東京の動物園に現われ檻の前の立て札には「従来捕獲されたる白熊の中にて最高緯度の極北において捕獲されたるものなり」といったような説明書がつくことであろう。そのころにはもうあの北氷洋上の惨劇も子熊の記憶からはとうの昔・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・このうさぎを捕獲すればテント内の晩餐をにぎわすことができるがなかなか容易には捕れないそうである。出歩く道がわかればわなを掛けるといいそうであるがその道がなかなかわからないと言う。それはとにかく、こんなはげ山の頂にうさぎが何を求めて歩いている・・・ 寺田寅彦 「小浅間」
・・・というのは、蜻とんぼを捕えるのと同じ恰好の叉手形の網で、しかもそれよりきわめて大形のを遠くから勢いよく投げかけて、冬田に下りている鴫を飛び立つ瞬間に捕獲する方法である。「突く」というのは投槍のように網を突き飛ばす操作をそう云ったものではない・・・ 寺田寅彦 「鴫突き」
・・・そうだとするとこれらの河童捕獲の記事はある年のある月にある沿岸で海亀がとれた記録になり、場合によっては海洋学上の貴重な参考資料にならないとは限らない。 ついでながらインドへんの国語で海亀を「カチファ」という。「カッパ」と似て・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・ これとは関係はないが、次の頁の脚註に、中世の博物学書に記述されたウニコール捕獲法というのが書いてある。純潔な処女をこの一角の怪獣の棲家へ送り込むと、ウニコールがすっかり大人しくなって処女の胸に頭をすりつけて来る。そこを猟師がつかまえる・・・ 寺田寅彦 「マルコポロから」
出典:青空文庫