・・・ その思想と伎倆の最も円熟した時、後代に捧ぐべき代表的傑作として、ハムレットを捕えたシェクスピアは、人の心の裏表を見知る詩人としての資格を立派に成就した人である。一三 ハムレットには理智を通じて二つの道に対する迷いが現わ・・・ 有島武郎 「二つの道」
・・・一年の独居はいよいよこの自信を強め、恋の苦しみと悲しみとはこの自信と戦い、かれはついに治子を捨て、この天職に自個を捧ぐべしと自ら誓いき。後の五月はこの誓いと恋と戦えり。しかしてかれ自ら敗れ、ついに遠く欧州に走らばやと思い定めき。最初父はこれ・・・ 国木田独歩 「わかれ」
・・・く小市民のモラルの一切を否定し、十九歳の春、わが名は海賊の王、チャイルド・ハロルド、清らなる一行の詩の作者、たそがれ、うなだれつつ街をよぎれば、家々の門口より、ほの白き乙女の影、走り寄りて桃金嬢の冠を捧ぐとか、真なるもの、美なるもの、兀鷹の・・・ 太宰治 「喝采」
出典:青空文庫