・・・日の光いたらぬ山の洞のうちに火ともし入てかね掘出す赤裸の男子むれゐて鉱のまろがり砕く鎚うち揮てさひづるや碓たててきらきらとひかる塊つきて粉にする筧かけとる谷水にうち浸しゆれば白露手にこぼれくる黒けぶり群りたたせ手もす・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・そこに小さな五六人の人かげが、何か掘り出すか埋めるかしているらしく、立ったり屈んだり、時々なにかの道具が、ピカッと光ったりしました。「行ってみよう。」二人は、まるで一度に叫んで、そっちの方へ走りました。その白い岩になった処の入口に、・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・ さらに、芸術はその特殊性によって、石炭を掘り出すためにきめられた生産経済計画に従って生産されるということだけでは決して、作品の価値を高め得るものではない。 文学的作品は新聞記事ではない。主題の強化、題材の蓄積、整理、筋の組立て。そ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・を掘り出すことを職務として表明したのであった。しかしながら彼の云う人間の全存在、或は宿命とは、その実質に何を指しているものであったろうか。芸術は人間的血肉の所産でなければならないという普遍性は、彼を待つ迄もなく古き一般論の土台である。彼の「・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ 窮した彼は、近所の山から掘り出す白土――米を搗くときに混ぜたり、磨き粉に使ったりする白い泥――を、町の入口まで運搬する人足になっていたのである。 できるだけ賃銭を貰いたさに、普通一俵としてあるところを、二俵も背負っているので、そん・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・自分の胸から掘り出すべきものだ。デュウゼはそれを知っていた。自分の芸によって観客の感激――有頂天、大歓喜、大酩酊――の起こっている時、彼女は静かに、その情熱を自己の平生の性格の内に編みこむため、非常なる努力をしていた。この「貴い時」の神聖と・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
出典:青空文庫