・・・この池へおちつくまで、私たちはどんなに方々の沼や、潟を探索したかしれません。けれど、どこにもすばしこい猟犬の鳴き声をきくし、狡猾な人間の銃をかついだ姿を見受けるし、安心して、みんなの休むところがなかったのです。そして、ようやく、この禁猟区の・・・ 小川未明 「がん」
・・・ 松木と武石との中隊が、行衛不明になった時、大隊長は、他の中隊を出して探索さした。大隊長は、心配そうな顔もしてみせた。遺族に対して申訳がない、そんなことも云った。――しかし、内心では、何等の心配をも感じてはいない。ばかりでなく、むしろ清・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・ 彼等は、戸棚や、テーブルや、ベッドなどを引っくりかえして、部屋の隅々まで探索した。彼等は、そこにある珍らしいものや、値打のありそうなものを、×××××××××××××××ろうとした。 既に掠奪の経験をなめている百姓は、引き上げる時・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・若い女は、話し乍ら、さげすむようなまた探索するような、眼なざしで二三度じいさん達を見た。と、清三が老人達の方へ振り向いた。女は、さっと顔一面に嫌悪の情をみなぎらせたが、急に、それを自覚して、かくすように、「いらっしゃいまし。」と頭を下げ・・・ 黒島伝治 「老夫婦」
・・・けれども、それだけのことであって、そのうえ女の子に就いてのふかい探索をして見ようとは思わない。 しかし、誰かひとりが考える。なぜ、日本橋をえらぶのか。こんな、人通りのすくないほの暗い橋のうえで、花を売ろうなどというのは、よくないことなの・・・ 太宰治 「葉」
・・・科学の方面で云えば、例えばある方則または事実の発見前幾年に誰が既にこれに類似の事を述べているといったような事を探索して楽しむのである。 次にもう少し類を異にした骨董趣味がある。一体科学者が自己の研究を発表するに当って、その当面の問題に聯・・・ 寺田寅彦 「科学上の骨董趣味と温故知新」
・・・ 鳥さしは維新以前には雀を捕えて、幕府の飼養する鷹の脚を暖めさせるために、之を鷹匠の許へ持ち行くことを家の業となしていたのであるが、いつからともなく民間の風聞を探索して歩く「隠密」であるとの噂が専らとなったので、江戸の町人は鳥さしの姿を・・・ 永井荷風 「巷の声」
・・・はなはだしきは権家に出入して官の事業を探索する等、無用の時を費して本業を忘るるにいたる。その失、二なり。一、官の学校にては、おのずから衣冠の階級あるがゆえに、正しく学業の深浅にしたがって生徒席順の甲乙を定め難き場合あり。この弊を除くの一・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・いわんや彼の西洋諸大家の理論書を窺い、有形の物理より無形の人事に至るまで、逐一これを比較分解して、事々物々の原因と結果とを探索するにおいてをや。読てその奥に至れば、心事恍爾としてほとんど天外に在るの思をなすべし。この一段に至て、かえりみて世・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・然るに日本に於ては趣を異にし、男子女子の為めに配偶者を求むるは父母の責任にして、其男女が年頃に達すれば辛苦して之を探索し、長し短し取捨百端、いよ/\是れならばと父母の間に内決して、先ず本人の意向如何を問い、父母の決したる所に異存なしと答えて・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
出典:青空文庫