・・・江口渙、壺井繁治、今野大力などアナーキストであった作家詩人が、次第に共産主義に接近しつつあった。無産派文学団体の改組が頻繁に行われた。第一次大戦後のドイツではこの一九二三年にあのインフレーション、マークの下落が起った。その情勢が、ドイツ・フ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
・・・いずれの場合でも、ただ応募した作家たちが一まとめに派遣されただけで、各々の作家が、これまでどの産業に一番接近していたか、どんな社会的労働があるのか? それらの経験と行くさきの新興産業とはどんな関係にあるかというような詳細に亙って、作家と目的・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・こういう目に見える形ではないが、或る心持でそういう接近があり、それは今日、文学の上で大衆性を語る場合の特徴をなしているのである。 プロレタリア文学の歴史はさまざまの曲折の道を辿るであろう。そして、その一曲の一折れは、それぞれ当時の歴史の・・・ 宮本百合子 「今日の文学に求められているヒューマニズム」
・・・と社会との対立が問題となって西欧の「私小説の歩調に接近して来た」と見たのは小林秀雄氏である。氏はヨーロッパ文学において人文主義の時代から十九世紀の自然主義時代に至る自我の発展「社会化した私」と、自然主義が文芸思潮として移入した明治時代の日本・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・しかし東京にいた時の私の生活はいかにも繁劇らしいので、接近しようとせずにいた。その私が小倉へ来た。そこで君はわざわざ東京から私の跡を追って来た。これから小倉にいて、私にドイツ語を学びたいと云うのである。 これを聞いて私はF君の自信の大き・・・ 森鴎外 「二人の友」
・・・それと少し距離のある方面で働いているのは夏目君に接近している二三の人位なものでしょうか。小説以外の作品を出していられる諸君は数えません。 そこで私がそう云う諸君の下風に立っていて、何だか不平を懐いているものとでも認められているらしく見え・・・ 森鴎外 「Resignation の説」
・・・彼らは花園に接近した地点を撰ぶと、その腐敗した肺臓のために売れ残って腐り出しただけの魚の山を、肥料として積み上げた。忽ち蠅は群生して花壇や病舎の中を飛び廻った。病舎では、一疋の蠅は一挺のピストルに等しく恐怖すべき敵であった。院内の窓という窓・・・ 横光利一 「花園の思想」
・・・ シモンズの書いた所によると、デュウゼは自分の好きな人と話をする時には、椅子から立ち上がって、その人のそば近くに腰を掛け、ほとんど顔が相触るるまで接近して、眼は広く見開く。大きな鳶色の瞳を囲んでいる白い所がすっかりと見えるほどだ。時々身・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
・・・一見してふくよかに見える面でも、その開いた眼を隠してながめると、その肉づけは著しく死相に接近する。 といって、自分は顔面の筋肉の生動した能面がないというのではない。ないどころか、能面としてはその方が多いのである。しかし自分はかかる筋肉の・・・ 和辻哲郎 「能面の様式」
・・・それほど学界のボスの現象が顕著であり、そういうボスに接近する青年たちは、当時の流行語でいえば、シュトレーバーだと見られた。その後三、四十年の歴史が実証したところによると、そういう青年の感じ方は必ずしも間違ってはいなかったといえる。だから先生・・・ 和辻哲郎 「露伴先生の思い出」
出典:青空文庫