・・・ 科学教育のことが云われるからには、有益な科学の原理的な知識とともに、無私なよい観察者としての能力と、独創性を発揮するに足りるだけの周密、動的な推理の力とを二本の脚とする科学の精神が、あらゆる男女の心に培かわれてゆくことを願っていいので・・・ 宮本百合子 「科学の精神を」
・・・従って創作も本物でない、ともいうけれど、私経験というものには大した価値をおいていないのよ、ほんの小さい経験からいろいろなことを想像し、推理し、観察しておどろくべき大きな人生を見ることが出来るのですものね。〔一九二五年五月〕・・・ 宮本百合子 「久野さんの死」
・・・一人の見栄坊な婦人がどうこうということで解決のつくことではないことは、複雑な今日の片よった景気の派生物である事件の弁明に際して、その夫人の虚栄心云々が余り強調せられる結果、却って当然の推理となって一般人の常識に反映しているのである。 就・・・ 宮本百合子 「暮の街」
・・・いわゆる推理小説家にとっては、この事件が他殺か自殺かをはっきりさせて、その原因、手段をときあかすことが眼目だろう。けれども、一人の民主的作家としてわたしは、別な角度からこの事件に感じているところがある。 自殺であるにしろ他殺であるにしろ・・・ 宮本百合子 「「推理小説」」
・・・ このようにして自分の経験を綜合し、分析し、推理して発展させて行く理性の能力は人間にだけ与えられている。この人間にだけ与えられている最も人間らしい能力を私達は凡ゆる面でこれまで圧えられて来た。徴用に行った人はどれほど沢山の経験を重ねて戻・・・ 宮本百合子 「青年の生きる道」
・・・あるままを素直に感受する敏感さと、驚きもよろこびも疑問をも活々と感じ得る慧智と、人間の文化の今日までの成果に立っての強靭なる判断力、推理力が、益々作家に必要な稟質となって来ている。このような点では、科学の発展のヒントをつかむ人間精神の活動の・・・ 宮本百合子 「文学の流れ」
帝銀事件として、帝国銀行椎名町支店におこった全行員から小使一家までの毒殺事件は、意味のわからないほど惨酷な毒殺方法で、すべての人の心を寒くした。犯人の目星がついた、つかないと、推理小説家まで動員されてのさわぎのうちに、日は・・・ 宮本百合子 「目をあいて見る」
出典:青空文庫