・・・その葉はまた全体も揺らぎながら、細かに裂けた葉の先々をほとんど神経的に震わせていた。それは実際近代的なもの哀れを帯びたものに違いなかった。が、僕はこの病室にたった一人している彼のことを考え、出来るだけ陽気に返事をした。「動いているね。何・・・ 芥川竜之介 「彼」
・・・ ろうそくの火は、赤い、小さな烏帽子のように、いくつもいくつも点っていたけれど、風に吹かれて、べつに揺らぎもしませんでした。 太郎は、気味悪くなってきて、戸を閉めて内へ入ると、床の中にもぐり込んでしまいました。 ふと太郎は、目を・・・ 小川未明 「大きなかに」
・・・ 空がくるくるくるっと白く揺らぎ、草がバラッと一度にしずくを払いました。 と嘉助は半分思うように半分つぶやくようにしました。それから叫びました。「一郎、一郎、いるが。一郎。」 また明るくなりました。草がみないっせいによろこび・・・ 宮沢賢治 「風の又三郎」
・・・ 雁は二、三べん揺らぎました。見る見るからだに火が燃え出し、世にも悲しく叫びながら、落ちて参ったのでございます。 弾丸がまた昇って次の雁の胸をつらぬきました。それでもどの雁も、遁げはいたしませんでした。 却って泣き叫びながらも、・・・ 宮沢賢治 「雁の童子」
出典:青空文庫