・・・ 百貨店の娘さんたちの朝から夕方店を閉じるまでの忙しさ、遑のない客との応接、心を散漫に疲れさせるそれらの条件を健全でない事情と見て、反対の解毒剤として、所謂落着いた古来の仕舞は健全と思われているのであろう。実際に百貨店の娘さんたちの動き・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・ ――御覧なさい、小さい子供は、あまりひどく笑うと、神経が疲れてこういう反動が来る――そのあと注意はこんなに散漫です。 机のまわりにかたまっている子供たちは、珍しそうな顔をして、その表を見守った。 廊下では子供たちが、さっき舞台・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・けれども、今より進歩した欲求で人類の文化の跡を見直したいと思う時それらの知識は散漫なものだと感じられる。わかりやすく、やさしい本ということでコフマンの「世界人類史物語」を軽蔑する必要はないと思う。特にこの物語は著者コフマンの活溌な精神をよく・・・ 宮本百合子 「世代の価値」
・・・大会の空気は何となし散漫だった。「勤労者的なものを無意識にしろさえぎる空気は、新日本文学会にも底流している。素朴なもの、具体的なもの、日常的なものつまり勤労者的なものに対する挑戦は、文壇ですでにおこっている」と徳永直が書いたことには、次のよ・・・ 宮本百合子 「その柵は必要か」
・・・全く考えに沈潜する習慣を失った、散漫で、お喋りな人間――自分に何も分っていないということについて、全く気づいていない人間をつくるに役立っている。よくならされた犬のように、ヒントで支配される隷属的人民をつくるための方法であるとさえ云える。・・・ 宮本百合子 「文学と生活」
・・・をもって、散漫ながら立っている文筆家であろうことと思っていた。「幽鬼の町」は、作者としてはダンテの神曲、地獄篇をひそかに脳裡に浮べて書かれたのかもしれないが、そこに地獄をも見据えて描き得る人間精神の踏んまえ、批判はなくて、作者そのものが、一・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・現代世界における詩の将来 どの課題も十分研究されるべき性質をもつものであるけれども、特別とについては、散漫ながら誰の心の裡にも直ぐ湧く様々の感想があろうと云うものである。 現実の生活環境から超絶したものの観かた、感じかたは出来ないの・・・ 宮本百合子 「ペンクラブのパリ大会」
・・・そのために小説としての統一がみだされ、構成が散漫となっている。 この作者は構成に注意して、大きくどっさりある自分の材料に向うことが必要である。そして新しいリアリズムの文学には、新しい社会人の感覚から生れる心情的要素も重要であることをつけ・・・ 宮本百合子 「予選通過作品選評」
・・・これまでの過度の労働から俄かに働かない生活がはじまり気分は散漫荒廃して、正しい健康な慰安のない街々を歩きまわった。男よりはいずれ少いに決っていた解雇手当は、闇食いで減らされて行き、いつの間にやら集団的な売婬が始まった。その彼女達のある者は、・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫