・・・ 大学の玄関の左側にはちょっとした売店があって文具や、それから牛乳パンくらいを売っていたような気がする。オペラ、芝居、それから学生見学団のビラなどが貼ってあった。十時頃にはよく玄関でシンケン・ブロートの立喰いをしながらそんなビラを読んで・・・ 寺田寅彦 「ベルリン大学(1909-1910)」
・・・以前この辺の町には決して見られなかった西洋小間物屋、西洋菓子屋、西洋料理屋、西洋文具店、雑誌店の類が驚くほど沢山出来た。同じ糸屋や呉服屋の店先にもその品物はすっかり変っている。 かつては六尺町の横町から流派の紋所をつけた柿色の包みを抱え・・・ 永井荷風 「伝通院」
・・・一ひら 一ひら、お前を、市井の文具店の蔵から迎えよせ私の周囲には、次第に多くのまといが出来た。それ等の声に耳を傾け私も亦 人に洩れぬ 私語で 物語り見えぬ友情絶ち難い 愛が 二人の胸を繋ぐ。私は、此一・・・ 宮本百合子 「五月の空」
出典:青空文庫