・・・毛糸の寒中用のももひきジャケツは、今年御新調です。柔く軽いが、これまでのものより上等です。今栄さんが編んでいます。夜着はお気に入りましたか? 割合心持よい色の工合でしょう。 この間は田村俊子さん、重治さん、間宮さんたちと、稲ちゃんのとこ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 格別、彼のために新調されたのでもない座布団の上にあぐらをくんで、うまがって、はったい粉をたべている重吉を、ひろ子は、飽かず眺める、という字のままのこころもちで見まもった。 今夜に限らず重吉と一緒に食卓に向っているとき、ひろ子の心に・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・秀麿は位階があるので、お父う様程忙しくはないが、幾分か儀式らしい事もしなくてはならない。新調させた礼服を著て、不精らしい顔をせずに、それを済ませた。「西洋のお正月はどんなだったえ」とお母あ様が問うと、秀麿は愛想好く笑う。「一向駄目ですね。学・・・ 森鴎外 「かのように」
出典:青空文庫