・・・ 後談 寛文十一年の正月、雲州松江祥光院の墓所には、四基の石塔が建てられた。施主は緊く秘したと見えて、誰も知っているものはなかった。が、その石塔が建った時、二人の僧形が紅梅の枝を提げて、朝早く祥光院の門をくぐった。・・・ 芥川竜之介 「或敵打の話」
・・・――一間四面の堂の施主が、売僧の魚説法を憤って、「――おのれ何としょうぞ――」「――打たば打たしめ、棒鱈か太刀魚でおうちあれ――」「――おのれ、また打擲をせいでおこうか――」「――ああ、いかな、かながしらも堪るものではない―・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・寐棺の中に自分が仰向けになっておるとして考えて見玉え、棺はゴリゴリゴリドンと下に落ちる。施主が一鍬入れたのであろう、土の塊りが一つ二つ自分の顔の上の所へ落ちて来たような音がする。其のあとはドタバタドタバタと土は自分の上に落ちて来る。またたく・・・ 正岡子規 「死後」
出典:青空文庫