・・・いちいち例をあげてその相違をあげると面白いのだが、私はいまこの原稿を旅先きで書いていて手元に一冊も文献がないので、それは今後連続的に発表するこの文学的大阪論の何回目かで書くことにして、ここでは簡単に気づいたことだけ言うことにする。 宇野・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・ 家の病人の悪いと云う事で旅先から帰ると云うのは私にとっては今度が初めてで口に云い表わせないワクワクした気持がそう云う事に経験のない私の心を目茶目茶にかき廻した。どうぞして気を鎮めたいものだと思って欲しくもない枝豆をポチポチ食べながら今・・・ 宮本百合子 「悲しめる心」
・・・降りこめられ、宿の三階で午後を暮しても、そこが旅先の泊りであるという遽しさ、寥しさなどちっとも感じない。町の空気に、それ位ひろい伝統的な抱擁力がある証拠と思う。 いよいよ今日は立たなければならないという日。雲は断れたが、強い風が出た。す・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・仕事の為とは云いながら、小さい孫を押しつけて旅先に暮らすことの多い作造に不満を抱いているのだろうと志津は思った。全く、婆さんだけの家というのは、何故変に湿っぽいようで、線香のような煎薬のような一種の臭いが浸みついているのだろう。志津は、或る・・・ 宮本百合子 「街」
出典:青空文庫