・・・なきことなれども、幼少の時より国字の手習、文章手紙の稽古は勿論、其外一切の教育法を文明日進の方針に仕向けて、物理、地理、歴史等の大概を学び、又家の事情の許す限りは外国の語学をも勉強して、一通りは内外の時勢に通じ、学者の談話を聞ても其意味を解・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ 今日は時勢もちがい、かかる奇話あるべきようもなしといえども、もしも幸にして学事会の設立もあらば、その権力は昔日の林家の如くならんこと、我が輩の祈るところなり。また、学事会なるものが、かく文事の一方について全権を有するその代りには、これ・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・族もまた給人分の輩は知らぬことなれども彼の一条は云々、とて、互に竊に疑うこともあり憤ることもありて、多年苦々しき有様なりしかども、天下一般、分を守るの教を重んじ、事々物々秩序を存して動かすべからざるの時勢なれば、ただその時勢に制せられて平生・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・書簡に曰く一春風馬堤曲余幼童之時春色清和の日には必ず友どちとこの堤上にのぼりて遊び候水には上下の船あり堤には往来の客ありその中には田舎娘の浪花に奉公してかしこく浪花の時勢粧に倣い髪かたちも妓家の風情をまなび○伝しげ太夫の心中のう・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・「ともすれば時勢の旋渦中に巻き込まれようとして纔に免れ」「辺務を談ぜないということを書いて二階に張り出し」たりした安井息軒の生きかたをそのままに眺めている鴎外の眼も、私に或る感興を与えた。この短い伝記の中に、鴎外にとって好ましい女の或る精神・・・ 宮本百合子 「鴎外・漱石・藤村など」
・・・自分が生き、ひとを生かすために、女はますます多くの困難にうちかって行かなければならない時勢です。だから、明るい生活力を充実させる意味でも女は家庭にあっても何か一つ、中心的な仕事を持つことがのぞましいと、あなたはいっていらしたのだと思います。・・・ 宮本百合子 「現実の道」
・・・「やっぱり、こんな時勢だからでしょうね」と話した人は語った。 一九四五年十月という、日本にとって歴史的な月がすぎて、記念に、三木清賞の会が組織された。そしたら、その発起人の第一に、義理の兄弟である教授が名前を出していた。 云うに云え・・・ 宮本百合子 「行為の価値」
・・・大儒息軒先生として天下に名を知られた仲平は、ともすれば時勢の旋渦中に巻き込まれようとしてわずかに免れていた。 飫肥藩では仲平を相談中という役にした。仲平は海防策を献じた。これは四十九のときである。五十四のとき藤田東湖と交わって、水戸景山・・・ 森鴎外 「安井夫人」
・・・思想が古いとか古くないとかいうことはそもそも末であって、正しいか正しくないか、またその思想がどれほど人格的な力となっているか、その方が大切だ、とこう気づき始めると、儒教で育てられた父の思想が時勢の変遷といっこうに合っていないにかかわらず、根・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
・・・若い連中にはどうしても時勢に流され、流行に感染する傾向があったが、漱石は決してそれに迎合しようとはせず、また流行するものに対して常に反感を持つというわけでもなく、自分の体験に即して、よいものはよいもの、よくないものはよくないものとはっきり自・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫