・・・故に本文敵国の語、或は不穏なりとて説を作。 東洋和漢の旧筆法に従えば、氏のごときは到底終を全うすべき人にあらず。漢の高祖が丁公を戮し、清の康煕帝が明末の遺臣を擯斥し、日本にては織田信長が武田勝頼の奸臣、すなわちその主人を織田に売らんとし・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・ 註 本文に引例した諸家の作品を、直接に見ようと思われる読者のために、それ等が何に収められているかを、記して置く。「興津彌五右衛門の遺書」・「阿部一族」・「佐橋甚五郎」、「高瀬舟」「寒山拾得」・「じいさんばあさん」、「椙原品・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
過去への瞥見 今日の日本文学のありようは、極めて複雑である。そのいりくんだ縦横のいきさつを明瞭に理解するために、私たちは一応過去にさかのぼって、この三四年来日本の文学が経て来た道のあらましを顧みること・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・勤めている若い女が官僚風な空気の中でくしゃくしゃする気分はかかれていますが、ルポルタージュというものは、後記にかかれているような気分と本文の気分の間に漂う自分を自分で把握した上で具体的に書かれるものでしょう。〔一九四〇年五月〕・・・ 宮本百合子 「新女性のルポルタージュより」
・・・ 戦時中、日本の文学者たちが示したおどろくべき文学精神の喪失は、日本の野蛮な権力による文化圧殺の結果として見られるものであるけれども、兇悪な権力が出版企業と結合して、薄弱な日本文化・文学を底から掘りかえして来た過程は、惨憺たるものがある・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・ そんな断り書をつける位なら、漠然として、現実の影響力のない本文かというと、どうして。筆者がこの数万語で煽ろうとしている民族の対立は本能である、というにくむべき侵略主義の煽動、ソヴェト同盟についての非科学的なデマゴギー、「第二次世界戦争・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・を最後に附記されている『婦人公論』編集部宛の長瀬澄江さんのことばまでとおしてよんだとき、その手紙と本文の文章とのあいだに、切なさとはこういうものと思わせずにいないすすり泣きと、それをこらえて笑っている若い女の人々の肩のふるえを感じる。三回の・・・ 宮本百合子 「「未亡人の手記」選後評」
・・・この注意を受けたのは、まだ本文を校正していた時であったから、どこかへギョオテの名を入れて入れられないこともなかった。しかし私は考えた。諺に大師は弘法に奪われたとか云うようなわけで、ファウストと云えばギョオテのファウストとなっているから、こと・・・ 森鴎外 「訳本ファウストについて」
出典:青空文庫