・・・けれども又すぐ向うの樺の木の立っている高みの方を見るとはっと顔色を変えて棒立ちになりました。それからいかにもむしゃくしゃするという風にそのぼろぼろの髪毛を両手で掻きむしっていました。 その時谷地の南の方から一人の木樵がやって来ました。三・・・ 宮沢賢治 「土神ときつね」
・・・ そして水に足を入れたとき、私たちは思わずばあっと棒立ちになってしまいました。向うの楊の木から、まるでまるで百疋ばかりの百舌が、一ぺんに飛び立って、一かたまりになって北の方へかけて行くのです。その塊は波のようにゆれて、ぎらぎらする雲の下・・・ 宮沢賢治 「鳥をとるやなぎ」
・・・ デストゥパーゴはぎくっとして棒立ちになりましたが、わたくしを見ると遁げもしないでしょんぼりそこへ立ってしまいました。「ファゼーロをたずねてまいったのですが、どうかお渡しをねがいます。」 デストゥパーゴははげしく両手をふりました・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・と、私は棒立ちに立ちすくんでしまった。それと同時に止めても止らない涙がスルスルスルスルと頬をながれ下った。まあ何と云う事だろう。 一番先に私の眼にふれたのは沢山ならんだ薬瓶でその次には二人の医者、両親と女達にかこまれて居る私の妹は一番最・・・ 宮本百合子 「悲しめる心」
出典:青空文庫