・・・また小児の概して正直にして、無智の人民に道徳堅固の者多きは、今日の実際において疑うべからざることなれば、道徳は必ず人の教によるものにあらず、あたかも人の天賦に備わりて偶然に発起するものなりといえども、智恵は然らず。人学ばざれば智なし。面壁九・・・ 福沢諭吉 「文明教育論」
・・・積極的美とはその意匠の壮大、雄渾、勁健、艶麗、活溌、奇警なるものをいい、消極的美とはその意匠の古雅、幽玄、悲惨、沈静、平易なるものをいう。概して言えば東洋の美術文学は消極的美に傾き、西洋の美術文学は積極的美に傾く。もし時代をもって言えば国の・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・ 私ども素人の目にはクリスチアーナに扮したランツィという女優も貧寒であるし、ルドヴィッチ中尉に扮した俳優チェンタに特色も認められなかった。概して云えば技術的に後れている平凡な軍事的沙漠映画の印象であった。それがファッショの国では恐らく名・・・ 宮本百合子 「イタリー芸術に在る一つの問題」
・・・そういう超日常を欲する心を、一いきに、古都の宝である芸術鑑賞にむけるだけの精神力の活溌さは概して失われているらしい。京都人は男も女もリアリストと思う。〔一九二六年六月〕 宮本百合子 「京都人の生活」
・・・しかし、村の人々はどういう小説を読みたがっているか、またどの小説に対してどういう風に大衆的に批評したかというような綜合的な報告は概してすくない。自分は何々を読んだ。だが、作者は果して村の生活をよく知ってるのだろうか? 云々。そういうのはよく・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・二階は概してあつい。特に四畳は西日がさすので。ここは庭を見下し、青桐の梢に向い、いくらか増しです。ピアノの音がしている。緑郎はゴーゴリの「検察官」を組曲につくるプランをたて、しきりに思案中です。私はきのう、おとといでシャパロフ[自注12]を・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・となり、文芸院が概して大衆作家を主体としたのとちがって文芸懇話会はプロレタリア作家以外の純文学作家をも多数包括した。「文化の宝船に、文芸の珠玉を載せて、順風に金襴の帆を孕ませて行く。それが文芸懇話会の使命でありたい。楫をとるもの、艪を操るも・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・其故、内容を深く知らない人達はこちらの職業婦人と申しましても、概して工場事務所、商店等に働く婦人が、外面的の労働時間と衛生規則は完全であっても、その物質慾に刺戟されて如何に惨憺たる生活を営んで居るかと云うことも御分りになりますでしょう。流行・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・それまでの婦人作家が概して有産的な環境の中から生れ出ているに対して、この時代の潮は勤労的な生活の中から婦人作家を誘い出して、窪川稲子の「キャラメル工場から」等はその代表的なものだと思う。 そのような文学の動きは、新しい社会的な素地から作・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・写真の使い方、見出しのつけ方等、時に溌剌とした印象を与えるが、概して記事の範囲、深さは婦人雑誌から遠くも広くもなり難いらしい。昔、婦人欄は主として婦人記者であったけれども、この頃はそういうことが減って大体は男の記者でやられている。婦人欄など・・・ 宮本百合子 「女性の教養と新聞」
出典:青空文庫