・・・もっと男女選択のチャンスの広くなるような、美しい賢明な男女交際の機関をこしらえてやることは社会的義務であると思う。 しかし如何に機会乏しくとも青年学生はその恋愛の相手をレディに求めよ。水稼業の女性はいかに美しく、磨きあげられていても、尋・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・ 軍服が、どす黒い血に染った。 坂本はただ、「うう」と唸るばかりだった。 内地を出発して、ウラジオストックへ着き、上陸した。その時から、既に危険は皆の身に迫っていたのであった。 機関車は薪を焚いていた。 彼等は四百里ほど・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・しかし、機関銃を持って十人も、その中にかくれているか、或は、銃声をきゝつけて、附近から大部隊がやって来るとすると、こちらがみな殺しにされないとは云えない。一里の距離は、彼等に、本隊への依頼心を失わせてしまった。そして、軍曹から初年兵の後藤に・・・ 黒島伝治 「前哨」
・・・交通の便利は未だ十分ならず、商業機関の発達も猶幼稚であった時に際して、信頼すべき倉庫が、殆んど唯一の此の大商業地に必要で有ったろうことは云うまでも無い。納屋貸衆は多くの信ぜらるる納屋を有していて之を貸し、或は其在庫品に対して何等かの商業上の・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・娯楽という娯楽の機関は何もない時です。食物より外に誰も楽みがない。そこでこんな食堂の仕事ならば、まあ成り立つというものです。われわれの方から言いましても、こうしてお互いに焼出されてしまって、何か食う道を考えなけりゃなりません。この仕事なら、・・・ 島崎藤村 「食堂」
・・・ 四 しかし、震災の突発について政府以下、すべての官民がさしあたり一ばんこまったのは、無線電信をはじめ、すべての通信機関がすっかり破かいされてしまったために、地方とのれんらくが全然とれなくなったことです。市民たち・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・何せこの大雪で、交通機関がめちゃ滅茶なのですから、私はあれが入隊におくれた理由を、そこは何とかうまく報告できるつもりです。脱走兵を出したとあっては、この町全体の不名誉です。この町の名誉のために、一つ御苦労でもたのむ、というような事でした。・・・ 太宰治 「嘘」
・・・職場にいた頃、機関雑誌に僕はミューレンの焼き直し童話や、片岡鉄兵氏ばりのプロレタリア小説を書いていました。十銭で買った『カラマゾーフの兄弟』の感激もありましたろう。貧乏大学生の話、殊に嫁を貰ってからの兄との遠慮は、ぼくにまた幼年時からの理想・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・またある時はどこかの二等線路を一手に引き受けられる程の数の機関車を所有していた。またある時は、平生活人画以上の面白味は解せないくせに、歴代の名作のある画廊を経営していた。一体どうしてこんな事件に続々関係するかと云うに、それはこうである。墺匈・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・金州の戦場では、機関銃の死の叫びのただ中を地に伏しつつ、勇ましく進んだ。戦友の血に塗れた姿に胸を撲ったこともないではないが、これも国のためだ、名誉だと思った。けれど人の血の流れたのは自分の血の流れたのではない。死と相面しては、いかなる勇者も・・・ 田山花袋 「一兵卒」
出典:青空文庫