・・・こう思って壁と併行にそろそろ歩き出した。そして一番暗い隅の所へ近寄って来た時、やっと長椅子の空場所があった。そこへがっかりして腰を下した。じっと坐って、遠慮して足を伸ばそうともしないでいる。なんでも自分の腰を据えた右にも左にも人が寝ているら・・・ 著:リルケライネル・マリア 訳:森鴎外 「白」
・・・今にも倒れそうな危うい歩きようである。 風聞が伝わった。「彼女病めり。」 彼女はこの時より一層高いある者を慕い初めた。烈しい情熱の酔いごこちよりも、もっと高い芸術がほしい。ただ人を悩乱せしめるばかりでなく、大きい人生に包まれたる力と・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
出典:青空文庫