・・・に於ける強烈な自己凝視など、外国十九世紀の一流品にも比肩出来る逸品と信じます。お手紙に依れば、君は無学で、そうして大変つまらない作家だそうですが、そんな、見え透いた虚飾の言は、やめていただく。君が無学で、下手な作家なら、井原は学者で、上手な・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・たくさんの邦産映画の中には相当なものもあるかもしれないが、自分の見た範囲では遺憾ながらどうひいき目に見ても欧米の著名な映画に比肩しうるようなものはきわめてまれなようである。 ロシア崇拝の映画人が神様のようにかつぎ上げているかのエイゼンシ・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・自分が他の種々の点で優れたと思う画家の中でも色彩の独創的な事において同君と比肩すべき人を物色するのは甚だ困難である。 津田君の絵についてもう一つの特徴と思われる事がある。君の絵はある点で甚だ無頓着に自由に且つ呑気そうに見えると同時に、ま・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・相撲と碁将棋とは、その事柄において、これを政事に比して軽重の別あるがゆえに、その軽重の差にしたがいて、双方の長と長と比肩するを得ざるものなりといえども、今一国文明の進歩を目的に定めて、政事と学事と相互に比較したらば、いずれを重しとし、いずれ・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・現代の小説家に、果して絵画に於ける栖鳳や大観と比肩し得る作家が一人もいないと言い得るであろうか。例えば、島崎藤村、徳田秋声等は、日本の資本主義が勃興の途についたロマンチシズムの時代から、自然主義の時代、白樺等によって唱えられた人道主義の時代・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・ ストリンドベルヒに至っては、その深さと鋭さにおいて――簡素と充実とにおいて近代に比肩し得るものがない。また心理と自然と社会との観察者としても、ロシアの巨人の塁を摩する。彼もまた「人間」の運命を描いた。そして我々に新しいファウストを与え・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
出典:青空文庫