・・・最も有利な見方をしても結局一枚の水彩画の内容の最も簡単なる説明書き以外の何物でもあり得ないであろう。それだのにこの句が多くの日本人にとって異常に美しい「詩」でありうるのはいったいどういうわけであろうか。この句の表面にはあらわな主観はきわめて・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・を見たら、その中にロージャー・フライという人がこの花を主題にして描いた水彩があったのでそれがわかった。この絵に付した解説にこんな事が書いてある。「この絵はほんとうに特徴のスタディと呼ばるべきものである。物をそのままに見て、そして偏見なしに描・・・ 寺田寅彦 「病室の花」
・・・南国の炎天に写生帳をさげて、よくいっしょに水彩画をかきに出かけたりした。自転車の稽古をして、少し乗れるようになってからいっしょに市外へ遠乗りに行って、帰りに亮が落ちて前歯を一本折った事もあった。 そのころの亮の写生帳が保存されているのを・・・ 寺田寅彦 「亮の追憶」
・・・なお行くことしばらくにして川の流れは京成電車の線路をよこぎるに際して、橋と松林と小商いする人家との配置によって水彩画様の風景をつくっている。 或日試みた千葉街道の散策に、わたくしは偶然この水の流れに出会ってから、生来好奇の癖はまたしても・・・ 永井荷風 「葛飾土産」
・・・の中で、まことに根気よく、水彩画のように利根川べりの自然を描写している。「田舎教師」をよむと、写生文の運動というものが日本の文学の発展のために益した点がわかる。少くとも自然を描こうとする感情の中から余計な支那的誇張、風流の定型、哲学的衒学を・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・ 千世子が気まぐれに時々水彩画を描く木炭紙を棚から下してそれを四つに切ったのに器用な手つきで炬燵につっぷして居る銀杏返しの女の淋しそうな姿を描いて壁に張りつけて眼ばたきを繁くしながらよっかかる様な声で云った。「冬中私の一番沢山す・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
出典:青空文庫