・・・ 蒼味を帯びた薄明が幾個ともなく汚点のように地を這って、大きな星は薄くなる、小さいのは全く消えて了う。ほ、月の出汐だ。これが家であったら、さぞなア、好かろうになアと…… 妙な声がする。宛も人の唸るような……いや唸るのだ。誰か同じく脚・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・父親のバニカンタは、却って他の娘達より深くスバーを愛しましたが、母親は、自分の体についた汚点として、厭な気持で彼女を見るのでした。 例え、スバーは物こそ云えないでも、其に代る、睫毛の長い、大きな黒い二つの眼は持っていました。又、彼女の唇・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
・・・けれども、私たちは、それを決定的な汚点だとは、ちっとも思いません。 いまは、大過渡期だと思います。私たちは、当分、自信の無さから、のがれる事は出来ません。誰の顔を見ても、みんな卑屈です。私たちは、この「自信の無さ」を大事にしたいと思いま・・・ 太宰治 「自信の無さ」
・・・一方ではまたちっともそうした汚点をつけていない人もある。こうした区別が何を意味するかはそう簡単な問題ではないであろう。しかし、ことによるとこの姓名札の汚し方の同じ型に属する人には自ずから共通な素質があるかもしれない。そうして、人間の性情の型・・・ 寺田寅彦 「雑記帳より(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・ これに反して目のほうでは白色の中から赤や緑を抜き出す事が不可能であり、画面から汚点を除却して見る事はどうしてもできない。 このような本質的の区別がありはするが、蓄音機のあまりにはなはだしい雑音はやはり耳ざわりには相違ない。しかし一・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
・・・我輩は右の話を聞て余処の事とは思わず、新日本の一大汚点を摘発せられて慚愧恰も市朝に鞭たるゝが如し。条約改正、内地雑居も僅に数箇月の内に在り、尚お此まゝにして国の体面を維持せんとするか、其厚顔唯驚く可きのみ。抑も東洋西洋等しく人間世界なるに、・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・従来の儘なる我国男女間の関係を彼等の眼前に示して其醜態を満世界に評判せらるゝは、国光上の一大汚点、日本国民として断じて忍ぶを得ず。之を矯正する一日を遅くすれば則ち一日の恥を永うす可し。世人の改新を促して自から謹ましめ以て国の体面を清潔にする・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・ 私は、母上の心情にも同情し、理解したが、同時に、至純な、親と云うものの概念に恐ろしい汚点をつけられた。自分は、彼等を何だと思って居たのか、とさえ思った。彼女自身は、自分の愛は、親の愛であるが故に尊く浄く、且つ正当なものであると信じて居・・・ 宮本百合子 「小さき家の生活」
・・・そして一寸好い心持ちそうに、互に排撃するのはいいが暴力沙汰は一般人に不愉快な印象を与え、ひいて我国の無産運動に汚点をのこしたことになる云々と云ってる。だが無産運動、プロレタリアート文学の本道はこんなことでビクつくようなヤワなもんじゃない。断・・・ 宮本百合子 「ニッポン三週間」
・・・ 人類中の、少数の人々にとってはいかなる地上的幸福も悲惨も終局、内奥の人格に些の汚点をつけるにも足りないと云う特殊な場合はあります、非常に偉大な人格は、全く独立した人格で、何処にあっても、圏境を超えてそれが素で働いて行くと云うことなので・・・ 宮本百合子 「ひしがれた女性と語る」
出典:青空文庫