・・・二葉亭はこの『小説神髄』に不審紙を貼りつけて坪内君に面会し、盛んに論難してベリンスキーを揮廻したものだが、私は日本の小説こそ京伝の洒落本や黄表紙、八文字屋ものの二ツ三ツぐらい読んでいたけれど、西洋のものは当時の繙訳書以外には今いったリットン・・・ 内田魯庵 「明治の文学の開拓者」
・・・もっとも馬琴も至って年の若かった頃は、直接に実社会の人物を描いて居りまして、いわゆる「洒落本」という、小説にもならぬ位の程度のものを作って居ります。『猫じやらし』という一巻ものなどは即ちそれで、読んでみますると、本所辺の賤しい笑を売る婦人の・・・ 幸田露伴 「馬琴の小説とその当時の実社会」
・・・そのころ江戸で流行の洒落本を出版することにした。ほほ、うやまってもおす、というような書きだしで能うかぎりの悪ふざけとごまかしを書くことであって、三郎の性格に全くぴたりと合っていたのである。彼が二十二歳のとき酔い泥屋滅茶滅茶先生という筆名で出・・・ 太宰治 「ロマネスク」
出典:青空文庫