・・・りしていて、髪は油絵の具のごとくてらてらしていて、声はヴァイオリンのごとく優しくって、言葉は詩のごとく気が利いていて、女を口説く事は歌骨牌をとるごとく敏捷で、金を借り倒す事は薩摩琵琶をうたうごとく勇壮活溌を極めている。それが黒い鍔広の帽子を・・・ 芥川竜之介 「葱」
・・・羽根がむらさきのような黒でお腹が白で、のどの所に赤い首巻きをしておとう様のおめしになる燕尾服の後部みたような、尾のある雀よりよほど大きな鳥が目まぐるしいほど活発に飛び回っています。このお話はその燕のお話です。 燕のたくさん住んでいるのは・・・ 有島武郎 「燕と王子」
・・・昼御飯がすむと他の子供達は活溌に運動場に出て走りまわって遊びはじめましたが、僕だけはなおさらその日は変に心が沈んで、一人だけ教場に這入っていました。そとが明るいだけに教場の中は暗くなって僕の心の中のようでした。自分の席に坐っていながら僕の眼・・・ 有島武郎 「一房の葡萄」
・・・中でも活溌なのは、お誓さんでなくってはねえ、ビイーと外れてしまう。またそのお誓はお誓で、まず、ほかほかへ皿小鉢、銚子を運ぶと、お門が違いましょう。で、知りませんと、鼻をつまらせ加減に、含羞んで、つい、と退くが、そのままでは夜這星の方へ来にく・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・その上、僕ら二人の留守中に老母がその孫どもに食べ過ぎさせたので、それもまた不活溌に寝たり、起きたりすることになった。 僕の家は、病人と痩せッこけの住いに変じ、赤ん坊が時々熱苦しくもぎゃあぎゃあ泣くほかは、お互いに口を聴くこともなく、夏の・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・その不活溌な状態は平常経験するそれ以上にどこか変なところのある状態だった。花が枯れて水が腐ってしまっている花瓶が不愉快で堪らなくなっていても始末するのが億劫で手の出ないときがある。見るたびに不愉快が増して行ってもその不愉快がどうしても始末し・・・ 梶井基次郎 「泥濘」
・・・ 十二月の三日の夜、同行のものは中根の家に集まることになっていたゆえ僕も叔父の家に出かけた、おっかさんは危なかろうと止めにかかったが、おとっさんが『勇壮活発の気を養うためだから行け』とおっしゃった。 中根へ行って見るともう人がよほど・・・ 国木田独歩 「鹿狩り」
・・・赤い布で髪をしばった若い女が、男のような活溌な足どりで歩いている。ポチカレオへ赤い貨車が動く。河のこちらは、支那領だ。 黒竜江は、どこまでも海のような豊潤さと、悠々さをたたえて、遠く、ザバイガル州と呼倫湖から、シベリアと支那との、国境を・・・ 黒島伝治 「国境」
・・・ 活溌な伝令が、出かける前、命令を復唱した、小気味のよい声を隊長は思い出していた。「うむ、そうだ。」彼は肯いて見せたのだった。「それを一人も残らず殲滅してしまった。我軍の戦術もよかったし、将卒も勇敢に奮闘した。これで西伯利亜のパルチ・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・実際大噐晩成先生の在学態度は、その同窓間の無邪気な、言い換れば低級でかつ無意味な飲食の交際や、活溌な、言い換れば青年的勇気の漏洩に過ぎぬ運動遊戯の交際に外れることを除けば、何人にも非難さるべきところのない立派なものであった。で、自然と同窓生・・・ 幸田露伴 「観画談」
出典:青空文庫