・・・私のひそかに考えているところでは、枕詞がよび起こす連想の世界があらかじめ一つの舞台装置を展開してやがてその前に演出さるべき主観の活躍に適当な環境を組み立てるという役目をするのではないかと思われる。換言すればある特殊な雰囲気をよび出すための呪・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・芭蕉の名匠であったゆえんは極端から極端までちがった個性の特長を正当に認識して活躍させた点にあるので、統率者の死後これらが四散しけんかを始めたのはやはり個性のはなはだしい相違から来るのである。 この共同制作が可能であり、また共同によって始・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・の接触から生まれた正嫡子であって、その出入する世界は一面には宗教の世界であり、また一面には科学の世界である。同時にまた芸術の世界ででもある。 いかなる宗教でもその教典の中に「化け物」の活躍しないものはあるまい。化け物なしには・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・若い丸髷の下町式マダムが弁慶縞の上っぱりで、和装令嬢式近代娘を相手に、あでやかにつややかに活躍している。 またある日。 糸のような雨が白い空から降る。右手の車庫のトタン屋根に雀が二羽、一羽がちょんちょんと横飛びをして他の一羽に近よる・・・ 寺田寅彦 「病院風景」
・・・しかし実際にはそこに作者の主観が幕の後ろで活躍している事は云うまでもない事である。これらの場合における能知者と所知者の関係を立ち入って考えて行けば、歴史は科学として成立し得るかというような大問題や、写生の意義如何という広い問題に逢着する。そ・・・ 寺田寅彦 「文学の中の科学的要素」
・・・あなたの御活躍なさってるご容子――」 三吉は呆気にとられて、あいての大きすぎる口もとをみた。「――いつか、新聞に“現代青年の任務”というのをお書きになったんでしょ。妾、とても、感激しましたわ」 東京弁をまじえて、笑いもせずにいっ・・・ 徳永直 「白い道」
・・・何だか作りものみたような気がして、どうも人物が活躍しない。」 宮川の二階へ上って、裏窓の障子を開けると雪のつもった鄰の植木屋の庭が見える一室に坐るが否や、わたしは縷々として制作の苦心を語りはじめた。唖々子は時々長い頤をしゃくりながら、空・・・ 永井荷風 「十日の菊」
・・・然るに近松は空想の力を仮りて人物を活躍させている。一は記事に過ぎないが一は渾然たる創作である。ここに附記していう。岡鬼太郎君は近松の真価は世話物ではなくして時代物であると言われたが、わたくしは岡君の言う所に心服している。 西鶴の価を思切・・・ 永井荷風 「正宗谷崎両氏の批評に答う」
・・・だから今度の作では那様関係ばかりを眼に見ていて、人間を活躍させようなんぞという気もなけりゃ、従って活躍もしなかった。これが「其面影」と「平凡」とを創作した時の、私の態度の違いさ。 だが、要するに、書いていてまことにくだらない。子供が戦争・・・ 二葉亭四迷 「私は懐疑派だ」
・・・童話にあらわれていた味は、生活的な成長から諷刺に転じて、小熊さんの鋭い反応性と或る正義感と芸術的野望とは、諷刺詩を領野として活躍しはじめた。 技術的に諷刺的表現の或る自由さを身につけた頃、小熊さんや私の属していた文学の団体は解かれて、そ・・・ 宮本百合子 「旭川から」
出典:青空文庫