・・・ 一九二〇年代のドイツは、左翼が活躍し、ドイツ共産党も公然と存在していた時代であった。その時代に育ったエリカ・マンが民主主義の精神をもち、日に日につのるナチスの暴圧に反抗を感じたのは自然であった。エリカ・マンは、はじめ小論文や諷刺物語を・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・それまでは闊達であった婦人の政治的活躍も様々の法令や規則で禁止されるようになったし、所謂筆禍によって投獄される新聞人はこの前後に目立って多数になって行った。日本の開化期の文化に関係ある統計のあるものは極めて意味深く近代日本というものの本質を・・・ 宮本百合子 「明日への新聞」
・・・そのことは、こんにちの亀井勝一郎のジャーナリズムでの活躍の本質と決して無縁なものではない。日本の現代文学の中になにかの推進力として価値あるものをもたらした人々は、北村透谷、二葉亭四迷、石川啄木、小林多喜二など、誰一人として「抽象的な情熱」を・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十一巻)」
・・・日清戦争の日本に於けるブルジョア文化の一形態であったキリスト教婦人同盟の主宰者として活躍した葉子の母の、権力を愛し、主我的な生き方に対して自然の皮肉な競争者として現われた娘葉子が、少女時代から特殊な環境の中で驚くべき美貌と才気とを発揮させつ・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・そして、一九二八年三月十五日、三・一五として歴史的に知られている事件のころから共産党の組織に全国的にはいりはじめていた警察スパイが、最もあからさまに活躍して、様々の金銭問題、拐帯事件、男女問題を挑発し、共産党員を破廉恥な行為へ誘いこみながら・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・そして、あの当時にあっては大変ハイカラーで欧州風の教養の匂いの高かった作品の中で、母なる作者の愛情と観察につつまれつつ活躍していた二人のヴァガボンドのうち、一人は言語学者としてイタリーへの交換学生として旅立っており、一人はもう若い物理学者と・・・ 宮本百合子 「含蓄ある歳月」
・・・数が多すぎるばかりでなく、これらの善男善女は一様に或る熱心と放心とのまじり合った表情の中に没せられていて、一人一人の人間らしい目鼻だちの活躍する以前の状態におかれているのであると見える。花じるしばかりで顔や眼のない人間の群は眺めていて悲しみ・・・ 宮本百合子 「上林からの手紙」
・・・麓の海村には、その村全体の生活を支えている大きな漁場がひかえていた。上に肺病院を頂いた漁場の魚の売れ行きは拡大するより、縮小するのが、より確実な運命にちがいない。麓の活躍した心臓を圧迫するか、頂の死に逝く肺臓を黙殺するか、この二つの背反に波・・・ 横光利一 「花園の思想」
・・・耶蘇は表面姿を消しているが、しかし異学に姿を変じて活躍している、あたかも妖狐の化けた妲己のようである、というのである。その文章は実に陰惨なヒステリックな感じを与える。少しでも朱子学の埒の外に出て、自由に物を考える人は、耶蘇の姿を変じたものと・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・それは我々の感覚に訴えるすべての要素を含むとともに、またその奥に活躍している「生」そのものをも含んでいる。 たとえば私がカサカサした枯れ芝生の上に仰臥して光明遍照の蒼空を見上げる。その蒼い、極度に新鮮な光と色との内に無限と永遠が現われて・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
出典:青空文庫