・・・伝統的な士道の末期的な教養は一面で馬琴の世界に勧善懲悪の善玉悪玉をつくり出しているとともに、他の半面では既に封建の石垣がくずれようとしている現実的な力に浸潤され、より現実の市民常識への拡大が行われているのである。 明治の初期の文学では、・・・ 宮本百合子 「作家と教養の諸相」
・・・万葉集の中にうたわれている大らかな明るい、生命の躍動している自然的な自然の描写が、藤原氏隆盛時代の耽美的描写にうつり、足利時代に到って、仏教の浸潤につれ、戦乱つづきの世相不安につれ、次第に自然は厭世的遁世の対象と化した。あわれはかなき人の世・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・即ち、当時のヒューマニズムの提唱さえも既に不安の文学といわれた時から現代日本文学の精神に浸潤しはじめた現実把握と理念との分裂の上に発生しているものであったという事実である。 ヒューマニズムを求める社会感情は、当時極めて一般的な翹望であっ・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ 十四日 岸博士来、左胸部浸潤 来年二月頃まで休養 〔欄外に〕○病気にかまけて居るAを見る歯がゆさ。 聖書 マンネリズム ○上役に対して。 ○パーマのこと。 二月頃 ○西村のこと。 マリモ・・・ 宮本百合子 「「伸子」創作メモ(二)」
・・・漱石は日本の伝統である官尊民卑が文学の領域にまで浸潤することを快く思わなかったのであろう。感想に、文学の事がききたいのならばそのことではこちらが師匠である、そちらから出向いてしかるべし、というような意味を洩している。漱石の主観の裡では、一箇・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・現代の恋愛論が、多分の猥談的要素に浸潤されていること、両者の区別が極めて曖昧になっているところ。そこでは男も女も卑屈にさせられている。日本的事情というものが斯くの如くにして表われているところに、私は、或る憤りを感じるのである。 杉山平助・・・ 宮本百合子 「もう少しの親切を」
出典:青空文庫