・・・ 源氏物語の時代にしろ、女らしさは紫式部が描き出しているとおりなかなか多難なものであった。仏教や儒教が、女らしさにますます忍苦の面を強要している。孟母三遷というような女の積極的な判断が行動へあらわれたような例よりも、女は三界に家なきもの・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
宗達 宗達の絵の趣などは、知っている人には知られすぎていることだろうが、私はつい先頃源氏物語図屏風というものの絵はがきに縮写されているのを見て、美しさに深いよろこびを感じた。 宗達は能登の人、こま・・・ 宮本百合子 「あられ笹」
・・・ ずっと後世になりヨーロッパの中世にあたる日本の藤原時代、女の人はどんなふうに縫ったり織ったりしていたのだろう。源氏物語の中には貴族の婦人たちが、自分で縫物をやっている描写はないと思う。優婉な紫の上が光君と一緒に、周囲の女性たちにおくる・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・有名な源氏物語は藤原時代の封建貴族文化の精華であるといわれているが、あの作品は同じ藤原時代に文盲ではだしで一度び飢饉が来ると道ばたに倒れて飢え死んだ庶民のいかなる心持ちをも反映してはいないのである。文字そのものさえ、貴族に独占されていた。現・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
・・・ 文学は今日、あながち源氏物語をかりないでも、世界文学の間に一つの明瞭な日本としての独自性をもって存在していると思う。各民族の文学は本質的にそのような存在性をもっている。科学の成果の普遍性は広大であって原理はあらゆる人類のもの、応用は各・・・ 宮本百合子 「市民の生活と科学」
・・・栄華物語、源氏物語、枕草子、更級日記その他いろいろの女の文学が女性によってかかれた。なかでも紫式部の名は群をぬいていて、「源氏物語」という名を知らないものはないけれども、その紫式部という婦人は何という本名だったのだろう。紫式部というよび名は・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・だが、名人にとって将棋は娯楽の範囲にとどまって考えられてはいないだろうし、文学は、国の光として英訳して海外に誇るべきものの一つとして考えられ扱われている。源氏物語がその一例だが、将棋の友とそれとの間に、常識は別種のものを感じ理解している。・・・ 宮本百合子 「日本文化のために」
・・・与謝野晶子の「口語訳源氏物語」のまねをして「錦木」という長篇小説を書いた。森の魔女の話も書いた。両親たちは自分たちの生活にいそがしい。家庭生活や夫婦生活のこまかいことがませた自分に見え、親たちを批評するような心持になった。お茶の・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・くて、日常生活における二つの面の錯綜、二つの波頭がうち当って飛沫をあげるところに生じるのであり、その飛沫も天へは消えず自然下へおちなければならないところに文化上の種々雑多な問題、例えば谷崎潤一郎訳の「源氏物語」が何故今日のような売れゆきを見・・・ 宮本百合子 「風俗の感受性」
・・・ 女の人が文学の仕事をしたというとき、いちばん先に考えられるのは「源氏物語」です。「源氏物語」は立派な小説であり、紫式部がなかなか立派な小説家であったことは、作品を読めば分ります。けれども、その後の日本でこの作品がどんな風に扱われて来た・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
出典:青空文庫