・・・ 芭蕉の作物には源氏物語のような書きだしがないからであろうか。或は林氏のように座談会へ袴を穿いて出席することによって自分が文学をするサムライであることを証言しないからであろうか。または、芭蕉の芸術家としての生きかたは、当時の時代的環境に・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・ これまで、日本の権力は外国に示す日本文学の典型というといつも源氏物語ばかりひっぱり出した。しかし、こんにち党と民主主義文学運動は、日本人民のものとしての新しい大作をもつべきであり、もたなければならない。世界の革命の一環としての日本の・・・ 宮本百合子 「文学について」
・・・私が源氏物語を読んだのは、与謝野さんの訳でではあったが、あの絢爛な王朝文学の、一種違った世界の物語りや、優に艷めかしい插画などが、子供の頭に余程深く印象されたものらしい。そしてそれに動かされて書いたのがこの「錦木」だったのである。その「錦木・・・ 宮本百合子 「昔の思い出」
・・・与謝野晶子さんの現代語訳源氏物語が出版されたのは、正確にはいつ頃のことであったか。今はっきり思い出せないが、私はそれを真似て、西鶴の永代蔵の何かを口語体に書き直し、表紙をつけ、綴じて大切に眺めたりした覚がある。 小学校六年の夏休みのこと・・・ 宮本百合子 「行方不明の処女作」
・・・私共は親しい源氏物語の光君は持っているが、彼とても、彼と交渉を持った数多い女性達の優婉さ、賢さ、風情、絵巻物風な滑稽等の生彩ある活躍にまぎれると、結局末摘花や浮舟その他の人物の立派な紹介者というだけの場合さえあるようだ。種々な作品を一般にい・・・ 宮本百合子 「わからないこと」
・・・世界に誇る日本の古典文学といえば、それがたった一つしかないようにいつもとり出されている源氏物語にしろ、枕草子、栄華物語、その他総てこの時代の婦人たちの作品である。けれども、これらの卓抜な文学的収穫を残した婦人達が、当時の社会でどういう風に生・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
源氏物語を現代の口語に訳する必要がありましょうか。この問題を解決しようと試みることは、この本の序文として適当だろうかと思われます。 単に必要があるかと申しますのは、精しくいえば、時代がそれを要求するかということになりま・・・ 森鴎外 「『新訳源氏物語』初版の序」
・・・自然美を十分に味わうべきこと、文芸を心の糧とすべきこと、その文芸も『万葉集』、『源氏物語』のごとき古典に親しむべきこと、連歌や歌の判のことなども心得べきこと、などを説いた後に、実践の問題に立ち入って、人を見る明が何よりも大切であることを教え・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫