・・・ 勿論、演壇または青天井の下で山犬のように吠立って憲政擁護を叫ぶ熱弁、若くは建板に水を流すようにあるいは油紙に火を点けたようにペラペラ喋べり立てる達弁ではなかったが、丁度甲州流の戦法のように隙間なく槍の穂尖を揃えてジリジリと平押しに押寄・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・浪花ぶし語りみたい仙台平の袴をつけた深水の演説のつぎに、チョッキの胸に金ぐさりをからませた高坂が演壇にでて、永井柳太郎ばりの大アクセントで、彼の十八番である普通選挙のことをしゃべると、ガランとした会場がよけいめだった。演壇のまわりを、組合員・・・ 徳永直 「白い道」
・・・とそう言ったところで何もただボンヤリ演壇に登った訳でもないので、ここへ出て来るだけの用意は多少準備して参ったには違ないのです。もっとも私がこの和歌山へ参るようになったのは当初からの計画ではなかったのですが、私の方では近畿地方を所望したので社・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・こうやって演壇に立って、フロックコートも着ず、妙な神戸辺の商館の手代が着るような背広などを着てひょこひょこしていては安っぽくていけない。ウンあんな奴かという気が起るにきまっている。が駕籠の時代ならそうまで器量を下げずにすんだかも知れない。交・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・私は仕方なしに、その人のあとから演壇に上りました。当時の私の態度なり行儀なりははなはだ見苦しいものだと思いますが、それでも簡潔に云う事だけは云って退けました。ではその時何と云ったかとお尋ねになるかも知れませんが、それはすこぶる簡単なのです。・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・私が陳氏に立って敬意を示している間に演壇にはもう次の論士が立っていました。「諸君、しずかにし給え。まだそんなによろこぶには早い。なぜならビジテリアン諸君の主張は比較解剖学の見地からして正に根底から顛覆するからである。見給え諸君の歯は何枚・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・といって立候補しながら議会開会の全期間をつうじてその議場の演壇からもっとも雄弁にうったえることができたのが今日の醜態事件についてであるということは、またブルジョア婦人代議士の悲惨なる境遇をものがたっています。〔一九四八年十二月〕・・・ 宮本百合子 「泉山問題について」
・・・トルストイ百年記念祭が一九二八年にモスクワの大劇場で行われたが、そのとき、外国からの客、ツワイグやケレルマンがそこに立って挨拶した演壇へ出て祝辞をよんだソヴェト作家代表はリベディンスキーでも、キルションでもなかった。ピリニャークであったので・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・演説者の小柄な婦人党員は水さしから一杯水をのみ、鎌と槌を様式化した演壇から議長のいるテーブルへかえって行った。 くつろぎが広間じゅうにひろがった。 日本女はリノリューム敷の通路を隔て左側の坐席にいる四十ばかりの太い拇指をした男にきい・・・ 宮本百合子 「三月八日は女の日だ」
・・・ あんまり大きくない講堂で、円柱が立ちならんでいる舞台の奥にひろい演壇がある。レーニンの立像がある。赤いプラカートがはられている。そこへ、革命十周年記念祭のお客で日本から来ていた米川正夫、秋田雨雀をはじめ、自分も並んで、順ぐりに短い話を・・・ 宮本百合子 「ソヴェト文壇の現状」
出典:青空文庫