・・・ゆえに、最初エビシを学ぶときより、我が、いろはを習い、次第に仮名本を読み、ようやく漢文の書にも慣れ、字の数を多く知ること肝要なり。一、幼年の者へは漢学を先にして、後に洋学に入らしむるの説もあれども、漢字を知るはさまで難事にあらず、よく順・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・という漢文直訳風の語下にあるために一句の調和を得たるなり。「落花」の語は「祇や鑑や」に対して響きよく、「芭蕉庵」という語なくんば「耳目肺腸」とは置く能わず。「採蓴」は漢語にあらざれば言うべからず、さりとてこの語ばかりにては国語と調和せず。ゆ・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・その時分には、漢文が武士階級の男子の教養の基本であった。しかも政治の激動期に、朱子学が或る役割を持っていたことなどから、漢詩が伝統の文学の形式から、直接の日常の感情表現の手段となって行った。明治維新というものがその一面に下級武士の大きい力の・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・“A circle of knowledge, in 200 lessons”と云うのを、漢文訳つきで編輯したものだ。題目を見ると、一層面白い。 上半頁に Lesson 1. Object, と! 石・本・樹木其他は“are all o・・・ 宮本百合子 「蠹魚」
・・・千鶴子の書いたもので読んだのは、彼女の小遣い取りの為、或る小さい刊行物へ圭子を通して載せて貰った漢文から種をとった短い教訓話だけであった。どこかひろがりと土台のある調子を感じた。はる子に対しても仕事の内容などについては口を緘していたのが愉快・・・ 宮本百合子 「沈丁花」
・・・私たちの精神のなかには、所謂漢文学者を通してでない中国文学を知りたい欲望が非常につよい。現代中国文学の相貌について、深い関心が潜んでいる。その文学が、私共にも読めそうでいて、実は読めない。なまじ、魯迅を知り、魯迅の文学論を読む機会があっただ・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・これは、漢文読下し風な当時の官用語と、形式化した旧来の雅語との絆を脱して、自由に、平易に、動的に内心を芸術の上に吐露しようという欲求の発露であった。 ところが、二葉亭四迷の芸術によって示された文学の方向、影響は、上述の日本の事情によって・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・中には近世人の書いた、平易な漢文を訳した本なんぞは、わたくしは少しもほしく思いません。 わたくしのほしいのは、古事記のような、ごく古い国文の訳本でございます。それからやや降って物語類の中では、源氏物語の訳本が一番ほしゅうございます。・・・ 森鴎外 「『新訳源氏物語』初版の序」
・・・子供の時以来漢字や漢文を教わって来ていても、右のような単純明白なことを誰も教えてくれなかった。英語の字引きをひいて mustmustなどとあるのをおもしろがっていた年ごろに、もし漢語を同じように写音文字にすれば、どころではなくから、否…と並・・・ 和辻哲郎 「露伴先生の思い出」
出典:青空文庫