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・・・ このごろの朝の潮干は八時過ぎからで日暮れの出汐には赤貝の船が帰ってくる。予らは毎朝毎夕浜へ出かける。朝の潮干には蛤をとり夕浜には貝を拾う。月待草に朝露しとど湿った、浜の芝原を無邪気な子どもを相手に遊んでおれば、人生のことも思う機会がな・・・
伊藤左千夫
「紅黄録」
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・・・「然し、こりゃいかにも潮干によさそうなところですな。――その辺掘ったら蜆がいるんじゃないですか」「どれ――ちょっと拝借」 藍子は、脱いだ帽子をかぶせて突いていた尾世川のステッキで、波打際の砂を掘りかえした。「こんなところ……・・・
宮本百合子
「帆」